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労働災害事例

飲料水製造工場における二酸化炭素中毒

飲料水製造工場における二酸化炭素中毒
業種 酒類製造業
事業場規模
機械設備・有害物質の種類(起因物) 異常環境等
災害の種類(事故の型) 有害物等との接触
被害者数
死亡者数:1人 休業者数:−
不休者数:− 行方不明者数:−
発生要因(物)
発生要因(人)
発生要因(管理)

No.841

発生状況

 本災害は、ビール貯酒室のタンクから大量に流出したビールを、排水溝から流し出そうとしていた作業者が、ビールから発生した二酸化炭素により倒れ、ビールとその泡を吸い込み溺死したものである。
(1) 災害発生当日、早番勤務に就いた被災者Aは、工場内コントロール室のモニターに、濾過器へ圧送中のビール貯蔵タンクが空になったという信号が出たことから、通常の作業と同様、当該タンクのバルブを締めるために、ビール貯蔵タンクを据え付けてあるビール貯蔵室へ向かった。
(2) 一方、数時間遅れで作業に就いた同僚のBは、ビール貯蔵室2階の発酵室に設置してある酸素濃度測定器(常時モニター)の警報が鳴っていることに気付いた。Bは、貯蔵室に行き扉を開けたところ、多量のビールが床一面に溜まっており、強い刺激臭を感じた。Bはこれまでの経験から、室内の二酸化炭素濃度が高く、酸素濃度が18%以下になった危険な状態であると判断し、その旨を上司のCに通報した。
(3) BとCが、呼吸用保護具を用いて、貯蔵室内に入ったところ、排水溝のそばでビールの泡に包まれた状態でうつぶせに倒れているAを発見し、室外へ救出したが、Aは既に死亡していた。
(4) 災害時の現場は、図1に示すとおり、
 [1] 貯蔵タンクと濾過装置への送り配管とを連結するゴムホースが、送り配管のライナー付ホース口から抜けていること
[2] 貯蔵タンクの手動元バルブが締められていること
[3] タンク加圧用空気弁が閉止されていること
[4] 水ホースが放水状態で残されていること
 などから判断して、タンク酒出しコックからゴムホースが抜け、ビールが床面に流出しているのに気付いたAが、圧送のために開いていたタンクのバルブと空気弁を閉めた後、床に溜まったビールと泡を処理しようと、水道栓にホースをつないで放水し、排水溝へこれらを流し込んでいたところ、二酸化炭素中毒および酸素欠乏症により倒れ、床面に残っていたビールにつかり溺死したものと推定される。

原因

(1) ビール貯蔵タンクと送り配管とを連結するためのゴムホースが、ホース口から抜けたこと(ホース口の抜け防止のための溝が規格より浅いという設備的要因)
(2) これにより、大量のビールが流出し、ビールに含まれる二酸化炭素が作業場所に充満したこと
(3) 常時モニターしている酸素濃度測定器が、ビール貯蔵室2階の発酵室前にだけ設置されており、外部からビール貯蔵室に入った被災者は、酸素濃度測定器の警報に気付かなかったこと
(4) 被災者が空気呼吸器等の保護具を着用せず、無防備なまま作業を行ったことから、二酸化炭素中毒、酸素欠乏症により倒れたこと
(5) ビール貯蔵室の床に段差があり、流出したビールが深さ10cm近くまで溜まっており、倒れた被災者の口元に流れ込んだこと

対策

(1) ライナー付きホース口の製造を発注する場合には、抜け防止のための溝の数や深さについても、規格の確認を行い、番線による締め付けが十分かどうかについても確認を行う。
(2) 酸素濃度測定器は、生産工程上明らかに酸素欠乏の恐れがある場所(発酵室)以外に、事故的に酸素欠乏の恐れがある場所(ビール貯蔵室)についても設置する。
(3) ビールが大量に漏れる等の異常事態に対する応急措置について、作業規定の整備を行い、関係者へ周知徹底すること。なお、この作業規定には、以下の事項が盛り込まれる必要がある。
 [1] 当該場所へ立ち入る場合の事前の酸素濃度測定および呼吸用保護具の着用
[2] 異常事態を発見した場合の連絡体制および作業指揮体制
[3] 当該場所への立入禁止措置および解除の方法
(4) 酸素欠乏危険作業従事者に対する教育の徹底。
 特に異常事態の発生等については、事例紹介が有効である。