マンション建設工事の際、壁を塗装中に発生した有機溶剤中毒
業種 | その他 | |||||
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事業場規模 | − | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
建設業のみ | 工事の種類 | 鉄骨・鉄筋コンクリート造家屋建築工事 | ||||
災害の種類 | 中毒 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.840
発生状況
(1) Hはライトウェルの一番下から上に上塗装作業を開始し、Sは屋上でスプレーガンのホースを引っ張ったりしながらHの作業状況を監視した。Hは足場の4段目付近で塗装中、急性有機溶剤中毒にかかって気を失い、ライトウェルまで墜落した。
上塗り塗装中、Hは苦しくて一度屋上まで上がってきていた。
(2) Sはライトウェルの中で何か叫んだような声を聞きおかしいと思い、中に呼びかけたが、返事がなかった。そこで、ライトウェルのタラップを降りて下に行こうとしたが、防毒マスクがないため、自分も倒れたらいけないと思い、いったん外に出て「救急車を呼んでくれ」と大声で叫んだ後、再びライトウェルの中に入っていった。
(3) Sは、ライトウェルの1番下で倒れていたHを発見した。SはHの意識が戻るようHの顔を叩いていたが、自分自身も意識を失った。
(4) この時のHの服装は、上はヤッケ姿、下にニッカズボンをはいて、足には運動靴をはき、頭にはタオルを巻いた上から保護帽をかぶり、顔面には防毒マスクをつけていた。
(5) Hの使用していた防毒マスクは、直結式小型防毒マスクで、有機溶剤ガス用吸収缶を内部にはめていたが、吸収缶の性能が有効な状態ではなかった。
原因
(1) 災害発生現場における空気中の有機溶剤が高濃度となったこと。 | |
[1] ライトウェルの形状が上に長い箱形で、四方が囲まれた外気とは天井部分でしか接触しておらず、開口部が狭かったこと。 [2] 強制換気が行われていなかったこと。 [3] ライトウェルの窓等の開口部をビニールおよびガムテープでふさいだため、天井部分を除いてライトウェル内部が密閉状態となり、自然換気がほとんど行われていなかったこと。 [4] 有機溶剤の蒸気密度が空気より重いため、ライトウェル内部に吹付塗装に使用した有機溶剤蒸気が滞留、蓄積したこと。 [5] 吹付塗装を繰り返し行ったこと。 | |
(2) 上記の危険な場所に、十分な対策を講ずることなく作業者が立ち入ったこと。 | |
[1] 有機溶剤作業主任者が不在の状態で、年齢・経験ともに未熟な若年作業者(19歳と16歳)が2人で作業を行っていたこと。 [2] HとSに対して、有機溶剤に関する衛生教育が全く行われておらず、有機溶剤の危険性、有害性に対する知識が不足していたこと。 [3] 1日でライトウェルの塗装作業を終了させるために、作業を急いだこと。 [4] 防毒マスクの吸収缶を防毒能力を超えて使用したため、有機溶剤が吸収されずに通過してしまったこと(この状態を破過と呼ぶ)。 | |
(3) 元請け会社側の作業指示、作業管理が十分に徹底していなかったこと。 | |
[1] 元請け会社側責任者は、災害発生の前日、連絡会議において、一次下請のD塗装工業(株)の現場責任者より、翌日つまり災害発生当日の作業内容については、養生および吹き付けと聞いていたことを養生のみと誤解し、有機溶剤の取り扱いに関して特に注意を行わなかった。 [2] 一次下請D塗装工業(株)の現場責任者は、塗装職人不足の状態であったため、自らもマンション建設工事現場の他の作業場所で、塗装作業に従事せざるを得ず、災害発生当日、A建設の作業者のHとSに対して、「マスクを着用せよ」程度の指示を行っただけで、現場の見回りもしていなかった。 |
対策
(1) 通風の十分でないピットにおいて、有機溶剤含有物を用いた吹付塗装を行う場合、ピット内の有機溶剤蒸気除去対策を講じること。(2) 有機溶剤作業主任者を選任し、塗装作業を直接指揮させること。
(3) 塗装作業に従事する作業者に対し、有機溶剤に関する衛生教育を行うこと。
(4) 塗装作業に従事する作業者に対し、有効な防毒マスク等を使用させること。
(5) 元請け責任者は、下請け作業者に塗装作業を行わせる場合、適切な作業管理を行うため事前に、下請け作業者が行う作業の内容を把握すること。