職場のあんぜんサイト

  1. ホーム
  2. 労働災害事例
  3. 労働災害事例(検索結果詳細)

労働災害事例

1,1,1−トリクロロエタンの吹き付け作業中に発生した有機溶剤中毒

1,1,1−トリクロロエタンの吹き付け作業中に発生した有機溶剤中毒
業種 機械(精密機械を除く)器具製造業
事業場規模
機械設備・有害物質の種類(起因物) 有害物
災害の種類(事故の型) 有害物等との接触
被害者数
死亡者数:− 休業者数:1人
不休者数:− 行方不明者数:−
発生要因(物)
発生要因(人)
発生要因(管理)

No.835

発生状況

(1) 被災者は、パラボラアンテナや圧力容器などを製造する工場に勤務しており、災害発生当日、工場内で図1のような直径2.4m、高さ2.1m、体積9.5m3の鉄製のタンクであるセンターハブ内に直結式小型防毒マスクを着用して入り、スプレーガンを用いて、第2種有機溶剤の1,1,1−トリクロロエタンを80%含有する溶剤(熔接の際の熔接かすの付着を防止する溶剤)吹き付けを行った。
 作業開始後、2、3分経過したところで、センターハブ内の作業音が突然しなくなったことを不審に思った同僚が内部をのぞき、被災者が倒れているのを発見した。
 被災者は直ちに同僚により救出され、救急車にて病院に運ばれたが、急性有機溶剤中毒により、休業30日と診断された。
 なお、被災者は、作業開始直後すぐ有機溶剤の臭いを感じている。
(2) 上記業務は、1月に3回程度定期的に行うもので、1回当たりの作業時間は約3分であった。
 被災当日の1,1,1−トリクロロエタンの使用量は、350gで、センターハブ内(体積9.5m3、気温20℃)で使用した1,1,1−トリクロロエタンがすべて蒸発したと仮定すると当該有機溶剤の濃度は0.66%となる。
 なお、被災当日の作業時には、局所排気装置等の換気装置は使用していなかった。
(3) 被災者は、被災日の約1カ月前に雇用されたばかりであり、事業者は被災者に有機溶剤中毒に関する労働衛生教育は行っていなかった。
 また、有機溶剤作業主任者も選任されていなかった。

原因

(1) 被災者は、作業開始直後に有機溶剤の臭気を感じていることから、防毒マスク(注1)の着用方法が不適切であったか、また、防毒マスクの吸収缶が破過限度を超え、有機溶剤の蒸気を吸収する能力が失われたことが推定される。このため、被災者はタンク内作業において高濃度の有機溶剤の蒸気を吸入してしまったこと。
 なお、このような自然換気の不十分な場所で短時間有機溶剤作業を行う場合は、有機溶剤の蒸気の発散源を密閉する設備または局所排気装置を設けなければならず、これを設けない場合は送気マスクを使用して作業を行わなければならないが、どちらの対策も完全に講じていなかったこと。
(2) 被災者は、被災当日の約1カ月前に雇用されたばかりであり、防毒マスクを着用する等の有機溶剤中毒に関する若干の知識はあったものの、有機溶剤中毒に関する専門的な労働衛生教育は受けておらず、有機溶剤作業主任者による適切な作業指示も受けていなかったこと。

対策

(1) 有機溶剤業務に従事させるときには有機溶剤中毒予防に関する労働衛生教育を行うこと。
(2) 有機溶剤作業主任者を選任するときもに有機溶剤業務を行うときは、有機溶剤作業主任者の指揮のもとに作業を行うこと。
(3) タンク内での作業の手順、換気の方法、送気マスクまたは防毒マスクの使用方法、事故発生時の措置等を定めたタンク内標準作業要領を作成して作業を行うこと。
(4) 局所排気装置を使用する場合は、当該局所排気装置のフードの型式に応じた制御風速を出し得る能力(注2)を有するものを設置して作業を行うこと。
 なお全体換気装置を使用する場合は、タンク内部の気積に応じた換気能力(注3)を有するものを選択するとともに、作業者に送気マスクまたは有機ガス用防毒マスクを使用させること(作業が短時間の場合で、送気マスクを使用するときは、局所排気装置等を設けなくともよい)。
(5) 防毒マスクを使用する場合には、表1に示すようにガス濃度等の使用条件にあったマスクを選択するとともに、息苦しくなった場合には、すぐに作業を中止する等を留意の上使用すること。
(6) 事故発生時の人命救助の際の二次災害を防止するため、事故が発生した場合の救護方法についても教育しておくこと。
(7) タンクの内部という自然換気の不十分な場所での有機溶剤作業を行う場合は、できるだけ監視人を置くようにすること。