造成作業における酸素欠乏症
業種 | 土地整理土木工事業 | |||||
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事業場規模 | − | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 異常環境等 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
建設業のみ | 工事の種類 | 土地整理土木工事 | ||||
災害の種類 | 酸欠 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.832
発生状況
災害発生当時、当該工事はほとんど終了しており、残っている工事内容は、周辺道路の水はけを良くするため、敷地南東の周辺道路上にU字溝及びその地中に貯水枡を設置し、道路の下に埋設されている既設の下水管とつなぐ工事であった。今回の災害はこの工事で生じたものである。災害発生当日、現場に到着したC工業の作業者甲(被災者)他2名は現場にいた元請けであるB建設の現場代理人乙と作業内容について打ち合わせを行った。この打ち合わせの中では酸欠作業に関する注意事項はなかった。なお下請けであるC工業の3名の作業者の作業にかかわる指示は直接元請けであるB建設の現場代理人乙が行う形になっていた。
被災者甲らは、午前10時ごろ掘削用のドラグ・ショベルにより乙の指示する部分の掘削を始めた。しかし3mの深さまで掘削したが埋設されているはずの下水管を見つけることはできなかった。
そこで乙と被災者甲らが話し合い、掘削地点より北へ約60mほど離れたマンホールの中から既設下水管の中に入り方向を確認することとなった。
マンホールのふたを10分間ほど開けたままにした後、被災者乙がはしごを利用してマンホールの中に降りていった。甲は降りる途中にはしごから外れ、崩れ落ちるように前のめりにマンホールの底の泥に顔を付けるようにして倒れた(図1)。
現場代理人乙はとっさに酸素欠乏症だと判断し、他の2人の作業者に中に入らないよう指示し、救急車を要請するため現場を離れた。
この時、たまたまこのマンホールに隣接する敷地で他の敷地造成工事を行っていたG建設の丙が駆けつけ、自分の体にロープを巻き付け、もう1本のロープを持ってマンホールの中に入り、倒れている被災者甲の身体にロープを巻き付けた。そして、外にいた作業者がそのロープを引っ張り被災者甲を引き上げた。なお、この時丙も酸素マスク等は着用していない。
外に引き上げられた時点では甲の呼吸は停止していたが、丙が人工呼吸を行ったところ息をふきかえした。
なお、被災者甲がマンホール内に入るに当たり強制的な空気の送入(マンホール内部の換気)、マンホール内部の酸素濃度の測定は行われておらず、また酸素マスク等も着用されていなかった。当日の作業者の中に酸素欠乏危険作業主任者の資格を持つ者はなく、酸素欠乏等に関する特別教育を修了した者もいなかった。
原因
災害発生後、約4時間経過した時点でマンホール内の酸素濃度及び硫化水素濃度を測定した結果は表1のとおりである。硫化水素は検出されなかったが酸素濃度は2m以下ではほとんど0%となり、当該マンホール内部は酸素欠乏状態であることが判明した。このマンホールが接続されている下水管は近接の工場において出された工業用水汚水等が流れ込んでおり、酸素欠乏空気等の発生は十分に予想されるところであった。しかしながら、現場代理人乙、被災者甲ら全員に酸欠に関する認識が薄かったため、マンホール内部の酸素濃度等の測定を実施しなかったものであり、このため、換気あるいは、空気呼吸器等の着用を行うことなく、マンホール内部に被災者が立ち入ったことが、本件災害の直接的な原因となったものである。
対策
(1) 作業開始前に作業場の酸素濃度等の測定を行うこと(2) 作業開始前に作業場の空気の換気を行い酸素濃度を18%以上、硫化水素濃度を10PPM以下に保つこと
(3) 酸欠作業に従事する作業者に酸素欠乏に対する知識、保護具の使用方法、救急蘇生方法などの特別教育を受けさせること
(4) 酸欠作業主任者を選任し、その者の指示に従い作業を行うこと
(5) 非常時に対する備えとして、空気呼吸器等の避難用具を備え付けておくこと