潜水業務における窒素酔いによると考えられる業務上災害
業種 | その他 | |||||
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事業場規模 | − | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 異常環境等 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
建設業のみ | 工事の種類 | その他の建設工事 | ||||
災害の種類 | 分類不能 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.822
発生状況
本例は灯浮標設置に伴う潜水業務において発生したものである。災害発生当日、8時42分ダイバー甲及び乙が水深50mの地点で潜水船よりスクーバ潜水を開始した。潜水作業計画は図に示す通りであり、在底12分、浮上17分の予定であった。
しかし、浮上予定時刻になっても甲、乙が浮上しないので待機していたダイバー丙が事態調査のため9時20分潜水を開始し、9時30分浮上し、シンカー付近に人影確認できずと報告した。
9時40分潜水指揮者は緊急事態連絡のため潜水船を警戒船に近づけ報告し、9時50分再び潜水地点へ向けて移動し、10時救援ダイバー2名が潜水し捜索を行ったが甲、乙を発見できず11時2分浮上した。
11時3分、別の救援ダイバー4名が潜水し捜索したが発見できず11時58分浮上した。12時に対策本部を設置、対策の検討を開始、14時に漁船10隻が集合し捜索を開始した。
結局、甲は災害発生日の翌日の12時14分、乙は災害発生日の5日後の7時10分に潜水地点からかなり離れた地点において死亡しているのが発見された。その際の両者の装備品の状況は表に示す通りである。
また事故現場の海底から2人が使っていた水中カメラが見つかり、フィルムには灯浮標を固定するシンカーの着底状態など3枚が撮影されていた。
原因
一般にスクーバ潜水ではレギュレータの故障、携行するボンベの空気欠乏は直ちにダイバーの生命にかかわる重大事態を招くので、通常は2名が組んで潜水を行ういわゆるバディシステムで潜水を行い、重大事態が発生した場合に、相手の潜水器から空気の供給を受けながら緊急に浮上するようにして、重大事態によって災害が発生しないようにしている。しかし、本事例ではバディを組んだ2人がともに死亡した。
通常バディを組んだ2人が2人とも死亡するという事例はほとんどなく、本事例のような場合は、両者を巻き込む重大事態が発生したこと、または一方のダイバーの意識が障害され危険な潜水行動をとった時に、他方のダイバーが救援におもむいて、逆にそのダイバーも巻き込まれてしまいパニック状態となったことなどが考えられる。
本事例では甲が水中での写真撮影を一部ではあるが遂行していることから、甲が窒素酔いになり、重い意識障害を起こしていたとは考えがたい。
一方、乙は事故発生以前1ヵ月にわたり潜水を行っていなかったことから、窒素酔いに対する耐性が低下していたことが考えられ、窒素酔いが出現しやすくなっていたのではないかと考えられる。
実際、乙が発見された時、乙のボンベの空気は98kg/cm2の残圧を示しており、また、マウスピースを外していたこと、レギュレータの機能は正常であったことから、乙が窒素酔いになり判断力の低下等からマウスピースをはずしたのではないかと推察される。
このような状況が発生したので、甲は乙を助けようとしたものの自らもパニック状態となり遭難したのではないかと考えられる。
対策
空気潜水では一般に水深30mを起えると窒素酔いの症状が認められるようになり、60mを超える潜水を行う場合は安全に潜水を行うことは難しくなってくる。 従って、30mを超えるようなスクーバ潜水を行うような場合には、窒素酔いによって生じる災害を防止するための対策をあらかじめ講じておくことが重要である。 窒素酔いによる災害防止対策には、耐性テスト、適応の利用その他がある。 (1) 耐性テスト 高圧タンクにダイバーを入れ、予定深度を超える圧を加えて、そのダイバーの窒素に対する耐性をチェックし、耐性が弱いダイバーに深い潜水業務を行わせることはできるだけ避ける。 しかし、窒素酔いの症状発現は、寒冷、吸気中の二酸化炭素分圧の上昇、不安感によって促進されることが知られており、このような条件が加わるような潜水においては、窒素酔いの症状はより発現しやすいことを考慮に入れておくことが必要である。 (2) 適応の応用 繰り返しあるいは長時間の潜水を行っていると、窒素に対する耐性が高まってくることはよく知られている。 深い潜水を行う場合には、事前に訓練を行って耐性を高めておくことも、窒素酔いによる災害防止のための方法の1つとなる。 (3) その他 | |
(イ) 吸気中の二酸化炭素分圧の上昇は窒素酔いの症状発現を促進するので、潜水器内に二酸化炭素がたまらないよう、換気は十分に行う。 (ロ) 二日酔いのときには減圧症が起こりやすいことはよく知られているが、窒素酔いもまた起こりやすくなる。このことからも二日酔いの状態で潜水することは避けるべきであることが分かる。 (ハ) スクーバ潜水の場合はあまり深い潜水を行わないようにする。 |