コンタクトレンズ製造・販売業における有機溶剤中毒
業種 | 光学機械・レンズ製造業 | |||||
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事業場規模 | − | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.821
発生状況
(1) 災害発生状況 被災者は、当該事業場に入社以来、製造検査部に所属し、コンタクトレンズの製造、検査を担当してきた。 製造、検査の作業工程のうち、レンズの加工、研摩及びツール工程において、レンズの汚れを除去する等のため、有機溶剤を含有する洗浄液が使用されており、被災者はこれらの工程において洗浄液をレンズの払しょくなどの目的で使用していたところ、入社後約9ヵ月後頃から、有機溶剤中毒の症状が出始めたものである(休業4日以上の災害)。 有機溶剤を含有する洗浄液は次の作業工程に用いられている。 | |
[1] 加工工程 レンズを加工する工程において、レンズに絶えず汚れやゴミがつくので、これらを除去するため、洗浄液を含ませた布でレンズをふく作業。 [2] 研摩工程 加工工程と同様、洗浄液を含ませた布でレンズをふく作業。 [3] 研摩の際用いた棒の後処理工程 研摩の際にプラスチック棒を用いるが、この棒を再使用するため、作業後、棒に付着したレンズを固定するために用いた両面テープを完全にはがしておく必要がある。その際、付着した両面テープをはがしやすくするため洗浄液が用いられる。この方法は、研摩作業終了後、棒を紙の箱に約60本程度並ベ、洗浄液をテープ付着部分にふりかけ、作業室内に放置するものである。 [4] ツール工程 この工程においても、レンズを布で磨く際、洗浄液を布に含ませている。 | |
(2) 使用していた洗浄液について 洗浄液は、事業場付近の薬局で販売されている家庭用ベンジン(500ml入り)であり、これは高純度のノルマルヘキサンを小分けしたものである。メーカーの分析表によれば成分としてノルマルヘキサンを約98%含んでいる。 当該事業場では、この家庭用ベンジンを月に120本〜150本購入している。 (3) 換気設備等の状況 作業場には、全体換気装置が天井に3カ所設置されており、設置位置は作業室内に2カ所、事務所内に1カ所である(図1No.1〜No.3)。 また、直接外気に向かって開放されている部分は次のとおりである(図1[イ]〜[ハ])。 | |
[イ] 作業室からバルコニーへの出入口(1.95m×0.8m)ただし、冬期には閉められている。 [ロ] 北側の回転窓(0.57m×0.51m)4カ所 季節にかかわりなく少し開放されている。ただし、上下約5cm程度までしか開かない。 [ハ] エレベーターホールから外段階への出入口 季節にかかわりなく開放されている。ただし廊下と事務室間のドアは冬期は閉められている。 | |
なお、事務室内に冷暖房用の空調設備が2台設置されているが、この設備は、室内空気を循環させるものであり、新鮮な空気の取り込みは全く行われていない。温度調節は事務室内で行われ、中央管理方式ではなかった。作業室内には暖房器具がなく、冬期に事務室内の暖房空気を作業室内に送るため、作業室と事務室とのしきりの上部に扇風機が設置されている。 |
原因
(1) ノルマルヘキサンの含有量の多い家庭用ベンジンをレンズの払しょく等の作業に連日使用していたこと。(2) 発散したノルマルヘキサンの蒸気を局所排気装置等の設備を設け排気することなく作業を行っていたこと。
(3) 作業場の換気状態が悪く、特に冬期は極めて悪かったこと。
(4) 事業者及び作業者の家庭用ベンジンの成分及びその有害性についての認識が全くなかったこと。
(5) 洗浄液を含ませた布によるレンズの払しょく作業及びプラスチック棒に付着したテープをはがしやすくするため洗浄液を用いる作業の方法が適切でなかったこと。
対策
(1) 有害性の低い代替品を使用すること。レンズの原材料の樹脂を侵さない溶剤、界面活性剤等の中から有害性の低い有効なものを使用する。
(2) 局所排気装置を設置し、ノルマルヘキサンの蒸気を排気すること。
(3) 洗浄液の消費量をできるだけ少なくするよう作業方法を改善すること。
(4) 作業者に対し、原材料の有害性及び取り扱い方法について教育を行うこと。
(5) 作業場の見やすい箇所に有機溶剤の取り扱い上の注意事項等を掲示し作業者の注意を喚起すること。
(6) 有機溶剤作業主任者を選任し、作業者が有機溶剤により汚染され又はこれを吸入しないように作業方法を決定し、作業者の指揮を行う等、その職務を励行させること。