部品洗浄装置の洗浄液交換作業中、有機溶剤中毒となる
業種 | 無機・有機化学工業製品製造業 | |||||
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事業場規模 | − | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.803
発生状況
災害の発生した工場では、部品を入れたかごがローラーおよび昇降器により自動的に洗浄槽内に送られ洗浄される仕組みの洗浄装置が設置されていた。洗浄液としてはジクロロメタン(第二種有機溶剤)を使用しており、毎年定期的に被災者の所属するA事業場が交換作業を行っていた。災害発生当日は、A事業場の社員4名で洗浄液の交換作業を行っており、前日に引き続きポンプによる洗浄液の抜き取りを行った後、午後2時過ぎからは、洗浄槽内に溜まっていた汚泥を取り除くため、作業者B、Cが槽内に入った。Bが奥の槽に設けられている自動昇降器の搬器に乗り、槽の外でDに操作してもらって搬器を槽の中間位置まで下げてもらい、搬器の隙間から槽の底に降り、汚泥の取り除きを手作業で始めた。Cは手前の槽の上部に停止させた自動昇降器の搬器の上でBの作業を見守っていた。
作業を始めて間もなく、Bが搬器に戻り、上げてほしいと言ったので、Dは搬器を上昇させたが、Bが搬器の上でふらふらしたかと思うと足を滑らせ隙間から槽の中に墜落し、そのまま意識を失った。
Cと外にいたEが救出のため搬器に乗り、Dに槽の中間位置まで下げてもらい、Cが底に降りてBを搬器に抱え上げようとしたとき意識を失い倒れた。Dは消防署および会社に連絡した上で現場に戻り、Eが搬器の上に残り、Dが槽内に降りて2人を救出しようとしたが、D、Eとも気分が悪くなったので槽外に出た。
午後2時半ごろ、現場に立ち寄ったFが事故の話を聞き、槽内に入った。そのとき消防救急隊員が到着し、送気マスクを着用して槽内に入り、Fとともに被災者を持ち上げようとしたが上がらなかった。
隊員はいったん外に出て(Fは隊員に外に出るよう言われたが出なかった)、酸素濃度を高めるために槽内にエアボンベを入れ空気を放出させた。次に、隊員2名が中に入り、ロープでBの体を縛り搬器の上に引き上げた。そのときFが槽内で意識を失い倒れた。その後同様に隊員がC、Fを順次引き上げ、3時半ごろ救出が終了した。
救出されたB、C、Fはすぐに病院に収容されたが、Bは同日中に、Cは翌日にジクロロメタン中毒により死亡した。Fは2カ月間の休業が必要と診断された。
なお、被災者らが槽内で作業を行ったときには、呼吸用保護具は使用しておらず、また、有機溶剤作業主任者は選任されていなかった。
原因
(1) 有機溶剤を入れてあった槽内に立ち入る前に、十分に有機溶剤を排出していなかったこと。また、同槽内に立ち入る際に、ばく露防止対策を行っていなかったこと。(2) 有機溶剤作業主任者を選任していなかったこと。
(3) 作業標準を作成しておらず、作業者に対する安全衛生教育が不十分であったこと。
対策
(1) 有機溶剤を入れたことのある槽内において清掃等の作業を行わせる場合は、作業開始前に水または水蒸気等を用いて槽の内壁を洗浄し、かつその水等を槽から排出する等の措置を講ずるとともに、送気マスクを使用させること。(2) 同作業を行わせるときは、有機溶剤作業主任者技能講習を修了した者のうちから有機溶剤作業主任者を選任し、作業の指揮等を行わせること。
(3) 同作業についての作業標準を作成し作業従事者に周知するとともに、同作業従事者に対して有機溶剤の有害性および取り扱い等について十分な安全衛生教育を行うこと。