コーヒー豆から発生した一酸化炭素による中毒
業種 | 飲料(酒類を除く)製造業 | |||||
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事業場規模 | − | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.790
発生状況
災害が発生したのは、缶入飲料等の製造工場の缶コーヒーを製造するラインに設置されているコーヒー原液を抽出する容器(以下「抽出容器」と言う)の内部である。この抽出容器はステンレス製で、高さ約2m、直径約1.5mの円筒形となっており、上部には直径約40cmのふたが設けてあり、下部は抽出の終わったコーヒー豆のカスを取り出すために開閉できる構造となっているもので、上半分が工場の2階の床から出るように設置されている(図)。
缶コーヒーの製造工程は、
[1] 数百度でばい煎した後に粉砕したコーヒー豆に熱湯をかけてコーヒー原液を抽出
[2] そのコーヒーの原液にミルクや砂糖を加えて調合
[3] 缶に詰める
ものであるが、この工場では、原料のコーヒー豆をばい煎、粉砕するための設備を有しておらず、ばい煎、粉砕したコーヒー豆を原料会社から購入して使用していた。
コーヒー原液の抽出とその原液にミルクや砂糖を加えて調合する作業は、一連のものとして作業員4名1組により実施されており、抽出作業は工場の2階で1名が行い、調合作業は工場の1階で3名が行っていた。
被災者は2階にいてコーヒー原液を抽出する作業の担当者である。
災害発生当日、その日に製造する製品は、いわゆる「微糖タイプ」のコーヒーであったため、調合作業の手間が通常より少ないことから調合作業の担当者一名は他のラインの手伝いに行き、3名1組で作業を行っていた。
1回の抽出作業は、
[1] 抽出容器にコーヒー豆を入れる
[2] コーヒー豆がすべて浸るまで熱湯を注ぐ
[3] 抽出容器下部のコックを開き工場の1階に設置されている調合用のタンクにコーヒー原液を流れ出させる
[4] 抽出容器下部を開きコーヒー豆の残りカスを排出する
の順に行われており、それぞれ2階と1階で声をかけながら行っていた。
作業開始後2回の抽出が終わり、2階にいる被災者の操作により抽出容器の下部が開かれ、コーヒー豆の残りカスが排出されるはずであるところ、抽出容器の下部が開かれないまま被災者からの連絡がないため、不審に思った調合の作業者が2階に上がり抽出容器をのぞいたところ、被災者が抽出容器内部で倒れていた。
被災者は、抽出容器から救出された時点ですでに意識不明となっており、病院での診断の結果、一酸化炭素中毒であることが判明し、約1カ月後に死亡した。
後日、行われた調査の結果、中毒の原因物質である一酸化炭素は、原料のコーヒー豆から発生していたことが判明した。
原料のコーヒー豆は、数百度の高温でばい煎する際に水分を失って多孔質状態となり一酸化炭素を吸着し、その一酸化炭素がコーヒー原液を抽出する際に、一気に脱着して密閉状態の抽出容器内に溜っていたものである。
再現実験の結果、抽出容器内には25,000ppmもの一酸化炭素が発生していた。
被災者が発見された際、抽出容器内にはコーヒー豆を抽出容器内で均一にならすための棒が落ちていたことから、被災者が抽出容器に入ったのは、抽出容器に入れたコーヒー豆を棒を使って均一にならしているうちに棒を抽出容器内に落としてしまい、それを抽出を終えてから拾おうとしたものと考えられる。
原因
1 一酸化炭素が大量に存在する容器内に、換気を行わずに立ち入ったこと。2 ばい煎コーヒー豆から一酸化炭素が発生することに関係者が無知であったこと。
対策
1 高濃度の一酸化炭素にばく露されるおそれのあるコーヒー抽出等の作業においては作業規定を定めて作業を行うとともに、特定化学物質等作業主任者等知識の十分な指揮者のもとに行うこと。2 コーヒー抽出容器には確実な換気が行われるまでは立ち入らないこと。
3 作業時に発生する一酸化炭素を排出するため、局所排気装置等を設置する等の措置を行うこと。
4 作業者に対し、作業に関連して発生する一酸化炭素の危険性等の必要な教育を行うこと。