浴室塗装工事での有機溶剤(トルエン、他)中毒
業種 | その他の建築工事業 | |||||
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事業場規模 | − | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
建設業のみ | 工事の種類 | その他の建築工事 | ||||
災害の種類 | 中毒 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.746
発生状況
一般住宅の浴室等の塗装工事において、浴室天井の塗装作業を行っていたところ、換気が不十分であり、また呼吸用保護具も使用していなかったため、作業者2名がトルエン等の有機溶剤蒸気を吸入し、被災した。なお、被災した作業者のうち1名は軽症で、救出後速やかに回復した。
被災者の勤務していた事業場は、従業員数が10人程度であり、主に一般住宅の外壁等の塗装工事を行っていたが、大規模な建築工事で下請けを行うこともあった。
災害が発生した塗装工事は、一般住宅2軒において、それぞれの外壁と浴室の塗装作業を行うもので、工期は5日間の予定であったが、5日目の浴室天井の塗装作業中に災害が発生した。
災害発生当日は午前中より、事業場の代表者を含めた6名で塗装工事を実施しており、昼食休憩中に、代表者が職長と相談した上で、作業者1名(A)に、午後から浴室天井の塗装作業(2軒分)を行うよう、指示した。
作業内容・分担の指示、安全衛生上の注意事項の伝達等は、通常、代表者から作業の前日になされていたが、今回の災害に係る塗装作業の指示は昼食休憩中に行われ、安全衛生上の注意は特にはなされなかった。
昼食休憩終了後、Aは単独で1軒目の住宅の浴室天井の塗装作業を開始した。
作業の内容は、浴室天井の周囲四側面を幅180cmのビニールシートで養生した後、ローラーを用いて、下塗りと上塗りの2回の塗装を行うもので、使用された塗料は、下塗りが水性塗料、上塗りが第二種有機溶剤を含む塗料(トルエン:30%〜40%、キシレン:10%程度、酢酸エチル:10%〜20%等を含有)であった。
なお、この事業場は可搬式換気装置を所有せず、換気については専ら作業現場の自然換気に依存していた。また、有機ガス用の呼吸用保護具は、営業所には備え付けてあったが、今回災害の発生した作業現場には持参していなかった。
作業開始後しばらくして、職長がAの塗装作業を見に行ったところ、換気がほとんど行われない状態で作業を行っていたので、浴室の窓にあたる部分のビニールシートは切って窓からの換気を行った方が良いとの指示をした。
1軒目の住宅の浴室天井の塗装作業終了後、Aは同様にして2軒目の住宅の浴室天井の塗装作業を開始したが、窓の所を切らず、ほぼ同じかたちで養生を行って塗装を開始した。
午後3時半過ぎ、作業者BがAの塗装作業を見に行ったところ、浴室の中から有機溶剤の強烈な臭いがし、Aの様子も変であったので、浴室出入口にあたる部分のビニールシートを破ってAを浴室外に出した。浴室内に入ったBは、通気が全く不十分な状態であり、非常に有機溶剤臭いのを感じたが、作業を終わらせてしまおうと考え、Aに替わって塗装作業を続行し始めた。
AはBの指示に従って一旦浴室外に出たが、すぐにまた浴室内に戻り、Bと会話していたところ、A、B共に意識を失って倒れた。
AとBが倒れているのは、作業を行っていた住宅の家人によりまもなく発見され、他の作業者により救出された。Aは救急車で病院へ運ばれたがまもなく死亡した。Bは救出後間もなく意識を回復し、近くの病院で診察を受けたが、異常が認められなかったのでそのまま帰宅した。
原因
(1) 作業主任者が選任されておらず(有資格者に該当する者もいなかった)、十分な知識を有する者が作業を指揮していなかったこと。(2) 作業標準が作成されていなかったこと(作業方法等は、他の作業者のやり方を見て覚えることになっていた)。
(3) 作業者への安全衛生教育が不十分で、換気等の必要性に対する認識が足りなかったこと。
(4) 作業場の換気が不十分であったこと。
(5) 呼吸用保護具を使用せず、また使用の指示も特になされなかったこと。
(6) 作業者一人の様子が変であり、また通気が全く不十分で、非常に有機溶剤臭いのを感じたにもかかわらず、根本的な措置を講じないまま作業を続行したこと。
対策
(1) 有機溶剤作業主任者技能講習修了者のうちから作業主任者を選任し、作業を指揮させること。(2) 適切な作業標準を作成すること。
(3) 作業者に対し、有機溶剤の危険性等についての教育を行うこと。
(4) 適切な排気装置の設置や有効な呼吸用保護具の使用等、必要な防護措置を講じること。