ガソリンによる有機溶剤中毒
業種 | 機械修理業 | |||||
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事業場規模 | − | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.719
発生状況
当日の作業は、6系統ある給油装置のうち5系統の流量器の交換を予定していた。現場に到着した被災者は、スタンドの店員に交換作業を行う旨を告げてポンプ室の鍵を借りた。ポンプ室は、スタンド事務室の隣に設置されており、幅約1.7m、奥行き約3.5m、高さ約2.8mで、換気口は自然換気式の直径約150mm程度の鋼管が、床近くから屋根上に開放されているだけであった。
作業の準備が終了したのち、スタンドの従業員に交換する系統の給油装置を使用しないよう申し入れ、他の従業員にも伝えるよう依頼した。そして、流量計の交換作業を順次行った。3系統目の交換作業中、スタンドの従業員が誤って給油しようとして、給油装置を使用したためポンプが作動し、交換中の流量計の配管からガソリンが吹き出した。
被災者は、すぐにポンプ室内を出て従業員に給油装置を使用しないように再度指示し、吹き出したガソリンの除去および換気を行うことなくポンプ室入口のドアを閉め、作業を再開した。
被災者は、ポンプ室内に充満したガソリンの蒸気を吸入し、意識を失ったが、ドアが閉まっているため発見されなかった。作業再開後約2時間経って、夕刻の繁忙時間帯になっても作業が終了しないため、スタンドの従業員がポンプ室のドアを開けたところ、倒れている被災者を発見し、救急車により病院に収容した。
原因
[1] 作業標準が定められておらず、給油装置を誤って使用し、ガソリンが漏洩したこと[2] 漏洩したガソリンを除去、または換気をせずに作業を開始したこと
[3] 換気装置等の設置が不十分であったこと
があげられる。
[1]については、本来は装置を使用させない措置だけでなく、誤って使用した場合でもポンプが作動しないような措置を講じる必要があり、今回のような作業を行う場合、ガソリンの流出の防止や安全確保のため、一般的には
[ア] 作業中の旨を給油装置等に表示すること
[イ] ポンプの電源をオフにすること
[ウ] モーター動力をポンプに伝えるベルトを外すこと
[エ] 消火器を確認すること
などが必要である。しかし、この事業場においてはこれらの事項が作業標準として作成、明記されておらず、被災者は、[エ]以外の措置を取ることなく作業を進めており、また、スタンド従業員に対する装置使用禁止の周知も徹底していなかった。
さらに、[2]については、被災者のガソリンの危険有害性についての認識が誤っており、引火性について注意すれば良いと考えており、吸入による人への影響について全く知識を持っていなかったためである。ガソリンの危険有害性については、被災者の所属する出張所の所長も同じように誤った認識を持っており、安全衛生教育が十分でなかった。なお、この背景として、A社では営業所、出張所に対する技術的な教育は実施されていたものの、安全衛生管理体制は確立されていなかった。
[3]については、自然換気方式による換気口は設置されていたが、ガソリン蒸気が空気より重いことを考えれば、ほとんど効果が期待できないものであった。また、この出張所には呼吸用保護具等も用意されていなかった。
対策
[1] 有害物が誤って漏出することのないよう、作業中であることの表示、消火器の確認、ポンプの電源を配電盤でオフにすること、ポンプのモーター動力をポンプに伝えるベルトを外すこと等必要な措置を作業標準として作成し、周知徹底すること。[2] ガソリンの危険有害性についての安全衛生教育を実施するとともに、安全衛生管理体制を確立すること。
[3] 換気装置、呼吸用保護具等を準備し、使用すること。