動作の反動で水温75℃の水槽に転落し、救出者も熱傷を負う
業種 | めっき業 | |||||
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事業場規模 | − | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 高温・低温環境 | |||||
災害の種類(事故の型) | 墜落、転落 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.699
発生状況
この災害は、この事業場において小物の溶融亜鉛メッキを行っている作業場で発生した。自動メッキ装置が設置されているため、ここでの作業は自動搬送機を利用して進められており、被加工物の取付け(9名)、メッキ槽での作業(3名)、メッキされた製品の仕上げ検査(9名)が行われており、全体を組長1名が管理していた。工程としては、製品の取付け→脱脂→水洗→酸洗→水洗→フラックス処理→溶融亜鉛メッキ→冷却(製品により60℃〜80℃の水温の冷却槽で冷却する)→仕上げ検査の順となっている。災害が発生したのは、このうちメッキ槽での作業であり、3名のうち1名はオペレーター室でメッキする時間および温度等のコントロールを行い、ほかの1名は、この作業場が高温であるため3名が交替で作業していることから、オペレーター室で待機しており、残る一名は
[1] メッキ槽付近でメッキされた製品を引き上げる際、ハッカーという手工具を使用して余分な亜鉛をふるい落とす作業
[2] 溶融亜鉛(430℃〜440℃)の表面に発生する酸化亜鉛をすくい取り、アッシュ箱に入れる作業
[3] 製品によってはメッキ槽から引き上げる際、扇風機の風を当てる等の作業
を行っている。
作業床は、地上より1.6m、溶融亜鉛メッキ槽はこの作業床より深さ3m、長さ5m、幅1.2mとなっている。メッキ槽には、転落・転倒することがないように、高さ90cmの鋼管製の手すりが取り付けられているが、製品が入る側(作業者は立ち入らない)と取り出す側には取り付けられていない。取り出す側にはアッシュ箱が置いてあり、手すりの端からチェーンを張ることができるようになっている。
一方、被災者が転落した冷却槽は、作業床から47cm突き出した状態で、縦横1.5m、深さ3.2mであり、作業者側にはチェーンを張ることができるようになっている。
この2つの槽の間の作業床に、作業のため、1日数回は作業者が立ち入っているが、チェーンは常態的に外されていた。
災害の発生した日は、ふだん通りの作業が行われていたが、午後4時頃からメッキを始めた製品は、品質保持のため、扇風機で強制的に空冷を行わなければならない製品であった。
このため、扇風機の風が溶融亜鉛メッキ槽に直接当たるようにするため、被災者は、風の通り道にあるアッシュ箱(325kg)をずらそうとしてそのつり金具にハッカーを引っかけて、強く引いた。
この時、ハッカーがつり金具から外れ、被災者は後方によろけて、チェーンが張られていなかった冷却槽(水温75℃)に転落した。
オペレーター室にいた別の作業員が被災者を引き上げ、水道水などで冷やしたが、全身に熱傷を負ったため死亡し、また救出にあたったこの作業者も左右の指に熱傷を負って被災した。
チェーンについては、通常は溶融亜鉛メッキ槽と冷却槽を平行に結ぶように張って立入り禁止とし、作業のため立ち入るときは2つの槽の前に張り替えて転落防止に備えることとされていたが、具体的な手順は定められておらず、また、守られていなかった。
原因
冷却槽および溶融亜鉛メッキ槽は高温であるため、転落防止のため手すりやチェーンが設けられていたが、日頃からチェーンが張られていなかったため被災したものである。対策
(1) チェーンをその都度張る方式では徹底が図られにくいので、常態的な手すりに置き換える工夫をしてみること。(2) アッシュ箱は小さくするなど、移動が容易になるように工夫をすること。
(3) 作業標準の作成、周知および安全教育の実施等を行うこと。