硫化水素中毒でマンホールに転落した作業者を救助に入った現場代理人が死亡
業種 | 清掃・と畜業 | |||||
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事業場規模 | − | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.689
発生状況
本災害は、甲社の地下に設置されている汚物槽の定期清掃の際に発生したものである。災害発生当日、清掃業を営む乙社の作業者5名が午前8時頃に集合し、現場代理人Aの指示の下に午前8時30分頃から作業を開始した。
Aらは、まず汚物槽内の排水ポンプを作動させ、し尿が含まれている汚水の排出に取りかかり、汚水の排出を終了した後、酸素濃度を測定した。
このとき、汚物槽内には横壁に汚物が付着し、底部には汚水が数cm残っている状態であったが、酸素濃度には異常がなかった。
次に、作業者Bがセキセイインコの入った鳥籠をロープを使って汚物槽内につり下げ、2〜3分経過後引き上げて鳥に異常がないことを確認した。その後、送風機をセットし、約10分間送風を行った。
Bがマンホールの中に入り、汚物槽内に降りようとしたところ、送風機のダクトがじゃまになったため、ダクトをマンホールから取り出した。
ダクトが取り出されたままの状態で、Bは汚物槽の昇降タラップを降り、消火栓に取り付けたホースを受け取って、水を放出しながら汚物槽内の清掃を開始した。
清掃開始後約10分経過したところで、Bは「息が苦しい」と言いながら昇降タラップを昇ってきたが、途中で意識がもうろうとなり、汚物槽内に転落した。
これを見ていたAと作業者Cは、Bを救出するため槽内に降りたが、Aもタラップを降りたところで倒れてしまった。
Aの後から降りていたCは、自力で槽外に出て救助を求めた。そばで作業をしていた作業者たちが送風機のダクトをマンホールの中に入れ、倒れているBの顔に向けて送風を開始した。数分後Bは自力で動き出し、タラップを昇って槽外に脱出した。その後Aの顔に向かって送風を行ったが、Aは自力で脱出することができなかった。
Aは20分ほど経過して現場に到着した消防隊員によって運び出されたものの、収容先の病院で硫化水素中毒により死亡した。
原因
[1] 汚物槽内を水を吹き付けて清掃した際に、汚水をかくはんしたため汚水に溶け込んでいた硫化水素が気化し、槽内の硫化水素濃度が高くなったこと。[2] 作業開始前に酸素濃度は測定したものの、硫化水素濃度の測定を行わなかったこと。
[3] 送風を途中で止めてしまったこと。
[4] 災害が発生し被災者を救出するにあたって、空気呼吸器等を使用せずに救助に向かったこと。
[5] 作業を行うに際し、酸素欠乏危険作業主任者を選任していなかったこと。
対策
[1] 本災害発生箇所のように、し尿等が入れてある槽などでの酸素欠乏症および硫化水素中毒にかかる恐れがある作業については、第二種酸素欠乏危険作業主任者技能講習を修了した者のうちから、酸素欠乏危険作業主任者を選任し次の事項を行わせること。 | |
イ 作業に従事する作業者が酸素欠乏等の空気を吸入しないように作業の方法を決定し、作業者を指揮すること。 ロ その日の作業の開始前、作業に従事するすべての作業者が作業を行う場所を離れた後、再び作業を開始する前および作業者の体、換気装置等に異常があったときに、作業を行う場所の空気中の酸素および硫化水素の濃度を測定すること。 ハ 測定器具、換気装置、空気呼吸器等その他作業者が酸素欠乏症等にかかることを防止するための器具または設備の点検。 ニ 空気呼吸器等の使用状況の監視。 | |
[2] し尿等を入れたことのある槽内で作業を行う場合は、作業の開始前に酸素濃度および硫化水素濃度の測定を行うこと。 [3] 当該作業を行う場所の酸素濃度を18%以上かつ硫化水素濃度を10ppm以下に保つよう換気すること。また、作業の性質上換気が困難な場合については、空気呼吸器等を併用すること。 [4] 非常の場合に備えて、空気呼吸器等やはしご・繊維ロープ等避難用具等を用意しておくこと。 [5] 当該作業に従事する作業者に対し | |
イ 酸素欠乏、硫化水素の発生の原因 ロ 酸素欠乏症、硫化水素中毒の症状 ハ 空気呼吸器等の使用の方法 ニ 事故の場合の退避および救急そ生の方法等特別の教育を行うこと。 |