塩素系洗剤と酸性洗剤との混合によって発生した塩素の吸入による中毒
業種 | 旅館業 | |||||
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事業場規模 | − | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.685
発生状況
被災者Aはホテルのフロント係であり、通常清掃作業には従事していないが、災害発生当日人手不足のため臨時に清掃作業を担当することとなり、当日午前10時頃から、ホテルの浴室(広さ約30m2)の清掃に着手した。作業に当たり、Aは浴室清掃用の洗剤を探しに物置に行き、保管してあった次亜塩素酸ナトリウム水溶液(10%含有)とシュウ酸を持って浴室に行った。まず、Aは次亜塩素酸ナトリウム水溶液を洗面器に移し、さらにその中にシュウ酸を洗剤用の大さじ一杯分加えて混ぜた。
Aは次亜塩素酸ナトリウム水溶液にシュウ酸を加えることは、特に指示されていなかったが、以前、宿泊客からシュウ酸を使用するとタイルの目地の汚れが良く落ちると聞いていたため、シュウ酸を加えたものである。
Aは浴室の窓を開放し、混合した洗剤をブラシに付けて浴室の床の清掃を行った。作業は12時頃一時中断し、その際浴室の窓は閉め、混合液を入れた洗面器はそのまま浴室内に放置しておいた。
午後1時半頃にAは作業を再開したが、その時は浴室の内部には刺激臭が漂っていた。Aは窓を開いて作業を再開したが、午後3時頃に呼吸困難となり、他の作業者に助け出された。病院で受診したところ、塩素中毒による約30日間の休業と診断された。
次亜塩素酸ナトリウムは一般的に酸類と混合すると化学反応を起こして塩素を発生させる性質がある(反応式)。
2NaCIO+H2C2O4→
NaC2O4+CI2↑+1/2O2↑+H2O
本事例の場合、次亜塩素酸ナトリウムと蓚酸が反応して発生した塩素ガスをAが吸引したものと思われる。
原因
[1] Aが清掃作業に不慣れなため、普段は使用しない薬剤を誤って混合させたこと。[2] 事業者からも取り扱いについて事前の教育はされていなかったこと。
[3] 塩素の滞留していた浴室内の換気を十分に行わないまま、作業を続けたこと。
対策
[1] 汚れをよく落とそうとして、次亜塩素酸ナトリウムを他の薬剤と併用したり、混合したりしないこと。特に、塩酸、シュウ酸等の酸の併用、混合を行わないこと。[2] 次亜塩素酸ナトリウムは、単に散布するだけでも若干塩素が発生することがあるので、換気を十分に行い、場合によっては防毒マスク(ハロゲンガス用)を使用する等の措置を講じること。
特に、トイレ、浴場等の自然換気が悪い場所では留意すること。
[3] 作業中誤って塩素ガスが大量に発生した場合、直ちに使用を中止し、一時退避等を行うこと。
[4] 事業者は、塩素ガスの有害性及び[1]、[2]、[3]等の対策について事前に作業者に対して十分に教育を行うこと。
[5] 次亜塩素酸ナトリウムと酸を同じ所に保管しておくときは、混合して使用することがないように区別しておくこと。