レーヨン製造工程に発生した硫化水素中毒
業種 | 化学繊維製造業 | |||||
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事業場規模 | − | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.677
発生状況
レーヨン製造工程は、レーヨン原液を紡糸機の中で希硫酸溶液に通し、糸状(以下スライバーという)にし、スライバーを集合二浴の中に入れ、スライバーに付着している二硫化炭素を除去し、その後延伸、切断、精練、仕上工程を経て製品とする。集合二浴は、紡糸機と伸張機の間にある設備で、紡糸機から出たスライバーを集合二浴の中の温水に通して、スライバーに付着している二硫化炭素を取り除き伸張機に送り込む設備である。集合二浴の大きさは、縦約6m、横約1m、高さ0.4mで上部に二硫化炭素の回収配管4本、給水配管1本、下部には、ブロー口が2カ所あり鉛栓がしてある。
災害発生時の作業の手順は次のとおりである。
(1) 集合二浴内の温水を紡糸機側のAブローラインから抜いて、排出口の真下にある酸性タンク(紡糸機内の酸回収用、集合二浴およびその後の工程で使用した酸性溶液の回収を行う)に回収。
(2) 冷水を集合二浴に入れる(内部を冷却し、二硫化炭素の発生を防ぐ)。
(3) 外蓋を取って集合二浴の水洗いを行う。
(4) 水洗い後の水を回収する。
(5) 5%アルカリ溶液を集合二浴に張り、一昼夜放置。
(6) 集合二浴からアルカリ溶液をBブローラインにより抜き、アルカリタンクに回収する。
(7) 水洗いをし、その後温水を張る。
災害発生当日は、前日に(5)まで終了していたので、(6)の作業から始めた。
甲、乙2名で作業に当たり、甲はアルカリ溶液をA、B両ブローラインを使用して速く抜く準備として、酸性タンクの真上にあるAブローラインの排出口にフレキシブルホースを取り付ける作業を行った。接続部分は、排出口よりホースのほうが径が大きいので、針金でつって支えるのである。ホースの他端は排水溝の上に置いた。乙も同様に伸張機側のBブローラインの排出口にフレキシブルホースを取り付け、ホースの他端をアルカリタンクにつないだ。甲は乙の作業が終わったことを確認してからBブローラインからアルカリ溶液を抜くため鉛栓をはずした。
15分程たってアルカリ溶液が少なくなったので、Aブローラインからも抜くため鉛栓をはずした。その直後、甲は異臭を感じたのでガスが発生したと考え、場所を移動したが気を失った。
Aブローライン排出口とフレキシブルホースの接続部分よりアルカリ溶液があふれ出し、その直下の酸性タンクの回収口に流れ込み、酸性タンク内の硫酸と反応して硫化水素が発生した。
アルカリ溶液Na2S+H2O←可逆反応→NaOH+NaHS
硫酸との反応H2SO4+2NaHS←可逆反応→Na2SO4+2H2S↑(硫化水素)
原因
[1] ブロー排出口とフレキシブルホースの接続が確実でなかったこと。[2] Aブロー排出口直下に酸性タンク回収口があり蓋がしてなかったこと。
[3] 集合二浴内の残液量の多い状態でAブローラインを使用したため、過量に流出したこと。
対策
[1] Aブロー排出口とフレキシブルホースを確実に接続すること[2] アルカリ洗浄作業中は酸性タンクの回収口には蓋をすること
[3] 作業者に対し作業手順の徹底を図り、順守させること(Aブローは使用しない等)
[4] 作業者に安全衛生教育を行い、安全意識の高揚を図ること
があげられる。