クレーン船の船倉内で発生した酸素欠乏災害
業種 | 港湾海岸工事業 | |||||
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事業場規模 | 30〜99人 | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 異常環境等 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
建設業のみ | 工事の種類 | 港湾海岸工事 | ||||
災害の種類 | 酸欠 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.651
発生状況
甲株式会社は、港湾土木事業を営む事業場で、46名の従業員を使用している。災害は、岸壁に接岸中であった甲社所有の港湾土木作業用のクレーン船の船倉内で発生した。当該クレーン船は、鋼鉄製の非自走式(引き船に引かれて移動するもの)で、約3年前に他社より転売を受けたものであるが、製造年月日は不明である。クレーン船の寸法は、長さ34.9m、幅14.8mの長方形で、甲板上には船首側につり上げ荷重70トンのクレーンとその運転台が設置され、船尾に船室を有している(図1)。
クレーン船は10個の船倉を有し、それぞれ1個ずつのマンホールが設置されており、事故の起きた船倉は、左舷船首よりの位置にある。船倉は浮力を得るためのもので密閉構造となっており、通常開かれることはなく、長期間密閉されている状況にあった。
災害発生に至る状況は、事故の前日、作業者A・B・Cの3名が岸壁に接岸中のクレーン船のウインチ移設作業中に、船首付近の海中から、泡が出ているのを発見したため、Aが海中に潜り、船底に穴が開いているのを確認した。
災害発生当日の朝、Aは会社の部長に「船倉内から穴の修理をします」と告げ、同部長から「十分気をつけろ」との指示を受けて、同僚Bとともに船倉内に入るための作業を開始した。まず、発電器をクレーン船に運び、船底に穴が開いている船倉のフタを開け、その後、水中ポンプを船倉に入れて海水を汲み出す作業を行った。
約1時間後、被災者Aは、フタを開いたマンホールから、船倉内の船体補強用鉄材を伝わって船底へと降りて行った。
この時、Bは甲板上から投光器を降ろし、船倉内を照らしていた。Aは船底へ着いた時に突然船尾の方を向いて倒れた(図2)。BはAを救出しようとトラロープを持って息を止めながら船倉内に入ったが、Aを助け上げることはできず、Aがおぼれないように、船底の横桟の上にAの顔をあお向けに寝かせて、甲板上に上がり、近くの会社事務所に戻り、救急車を要請した。Aは救急車で病院に収容されたが、約1時間後に死亡した。
原因
災害発生後、事故の起きた船倉について酸素濃度を測定したところ、深さ0m(甲板上) 20.9%
深さ1mにおいて 4.8%
深さ2mにおいて 1.7%
であった。なお災害発生当日、酸素濃度の測定は行っていなかった。また災害発生場所は、相当期間密閉されていた鋼製の船倉の内部であり、労働安全衛生法施行令別表第6第4号に該当する酸素欠乏危険場所であった。
対策
[1] 船倉内が酸素欠乏危険場所であることを認識すること。[2] 船倉内に入る場合は、酸素濃度の測定をし、適切な濃度を保つよう換気を十分に行うこと。
[3] 適切な作業手順を策定し、作業主任者の指揮に基づく作業をさせること。
[4] 酸欠作業従事者に対して、酸欠防止についての特別教育を行うこと。