五硫化りん残さいを処理中に発生した硫化水素中毒
業種 | その他の建設業 | |||||
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事業場規模 | − | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 有害物 | |||||
災害の種類(事故の型) | 有害物等との接触 | |||||
建設業のみ | 工事の種類 | その他の建設工事 | ||||
災害の種類 | 中毒 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.626
発生状況
災害の発生したA社は無機りん化合物、りん酸塩類、有機りん化合物等を製造している。被災者の所属するB社は、A工場内に事務所を置き、同工場から工場内の修理工事、清掃作業等を請負っている。災害発生現場は、A社工場敷地内東端の地山を削った約600m2の空地にある、五硫化りんの製造工程で発生する「残さい」埋立てのために掘削した、開口部が約4m四方で、深さ3.2mの地穴である。
発生する残さいには、無害なもの(黒色塊状)と、五硫化りんを含み、加水分解、中和処理を行った上でなければ廃棄できないもの(黄色粉状)の2種類がある。B社は、A社工場内で発生する残さいのうち、無害なもの及び加水分解、中和処理で無害化されたもの(いずれも黒色塊状)が入ったドラム缶を残さい埋立て場所まで運び、地穴に投棄、埋設する作業を請負っていた。
作業は、次の手順で行われることとなっていた。
[1] A社作業者が、工場から出された「残さい」の入ったドラム缶のふたを1本ずつ開けて無害なものを選び出し、それをB社作業者が埋立て場所に運ぶ。
[2] 埋立て場所でドラム缶にワイヤーを掛け、ドラグ・ショベルで地穴上につり上げ、残さいを地穴に投棄する。
災害発生当日、B社作業者は上記手順に従って残さい投棄作業を行っていたが、11本目のドラム缶をトラックから降ろし、地上でワイヤーを掛け直して地穴上につり上げたところ、ドラム缶からワイヤーが外れ、ドラム缶が地穴内に落ちた。そこで、作業者2名がドラム缶にワイヤーを掛けるため地穴内に下りたが、2〜3分後1名が倒れ、玉掛けを行っていたもう1名がこれを救出しようとしたが、同様に倒れた。
トレーラー上にいた作業者がこれを目撃し、パワーショベルのバケットを地穴内に下ろして地穴内に入り、両名をバケットに入れ、地上に引き上げて病院に運んだ。被災者のうち1名は2日後に退院したが、もう1名は硫化水素中毒により、休業3カ月と診断された。
原因
[1] 残さいを入れるドラム缶に、内容物が無害化処理されたものであるかどうか、関係作業者が容易に識別できる措置が講じられていなかったこと。[2] 残さいの選別は工場においてA社作業者が行っていたが、処理前の残さいの入ったドラム缶の取り扱いについてB社作業者に何ら指示をしていなかったため、1mほど離れた所に置かれたこれらのドラム缶もあわせて埋立て場所に運ばれてしまったこと。
[3] 作業員に十分な安全衛生教育が行われていなかったこと。
[4] 残さいは無害化処理されたものであるとの認識から、五硫化りんの加水分解により硫化水素が発生することが予期できず、地穴内に入るにあたって呼吸用保護具の使用等、適切な措置を講じなかったこと。
対策
[1] 残さいを入れる容器については、内容物により容器を区別すること。容器の見やすい箇所に内容物を表示すること、内容物により保管場所を区画すること等の措置を講ずること。[2] 元方から下請に対する安全衛生確保のための指示は、文書等により明確に行うこと。
[3] 危険有害物質による危害が予測される場合には、作業させる作業者に対し、あらかじめ具体的に安全衛生教育を実施すること。
[4] 下請だけで作業を行っている場合には、元請の現場管理者は、随時作業場所を巡視し、必要な指導を行うこと。
なお、残さい投棄作業の際にドラム缶に掛けたワイヤーをドラグ・ショベルでつり上げたこと、及び被災者をドラグ・ショベルのバケットに入れて引き上げたことは、安衛則第164条(主たる用途以外の使用の制限)違反を構成するものである。