塗装工程における熱中症
業種 | 機械(精密機械を除く)器具製造業 | |||||
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事業場規模 | − | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 高温・低温環境 | |||||
災害の種類(事故の型) | 高温・低温の物との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.867
発生状況
(1) 塗装工程について塗装工程では、[1]塗装の前処理→[2]電着炉→[3]中塗→[4]乾燥→[5]仕上げ塗装→[6]乾燥の順に作業が行われる。
被災者が従事していた作業は、中塗が終わった製品が乾燥設備に入る前に目視して、塗装不良の物をチェックし、中塗の作業場所へ戻すものである。作業は、乾燥設備から1m程度離れたところで行っていた。
(2) 災害発生当日の被災者の様子
被災者は、3日前に塗装工程の補助業務作業者として採用されたばかりであった。当日(8月)、被災者は、朝8時から勤務し、乾燥作業を始めた。周りの作業者によると特に変わった様子もなく働いていたが、午後4時ごろ、気分が悪くなったと言って休憩室に入って横になっていた。これを見ていた職長が工場内の医務室に運び、産業医により応急処置が行われたが、1週間の休業となったものである。
産業医の診断では、有機溶剤中毒の疑いはなく、体温が上昇しており、また、脱水症状もみられることから、作業環境の暑熱による熱中症と診断された。
被災者の当日の服装は、ヘルメット、作業衣、安全靴であった。
また、被災者は、汗をかくだけだと言って、周りの者が休憩時に水分の補給を勧めても十分に摂っていなかった。
(3) 被災者のこれまでの健康状態
入社時の健康診断をみると、血中脂質が若干高いが、産業医は業務に差し支えないとしている。
(4) 乾燥設備について
塗装後の乾燥を目的として、ガスを燃料とする熱風循環による間接加熱で乾燥を行うものである。炉内温度150℃、最大出力500,000kcalである。
乾燥装置については、作業主任者が選任され、定期的に検査が行われている。
(5) 工場内の換気、通風等について
工場は、天井に7機の換気装置(1機の定格電力2.2kW)が設けられているが、乾燥設備付近には風がうまく流れず、同設備周辺の気温が40℃を超えるなど、十分な換気、通風が行われているとはいえない。
以前に生産ラインを変更し、昔からの建屋に乾燥設備を設置したが、この際に換気装置の見直しは行われていないとのことである。
なお、隣の新しい建屋には、全体換気と併せて、特に暑熱な場所には送風装置が設けられている。
(6) 労働衛生教育の実施について
雇入れの際、就職に当たっての一般的な説明および作業方法についての説明は行っているものの、熱中症の予防対策など安全衛生に関する教育については十分に行われてはいない。
原因
(1) 乾燥設備や製品からの放熱により、作業場所が暑熱になっていること。(2) 工場内に通風等の適当な温度調整の措置が十分に講じられていなかったこと。
(3) 作業者が業務に不慣れで、水分の必要性など熱中症の予防対策を理解していなかったこと。
(4) 生産ラインの変更の際に、職場の危険有害要因について、十分な検討および対策が行われていないこと。
対策
(1) 暑熱な屋内作業場には、冷房、通風等適当な温度調整の措置を講じること。特に、夏季においては、作業場の状況を把握し、必要な対策を講じること。(2) 採用時には、作業による危険有害性とその防止対策など必要な労働衛生教育を実施すること。
(3) 暑熱な環境下の作業では、作業開始前および作業中においても適宜作業者の健康状態の把握に努めること。