安全衛生のキーワードで関心が高いものについて解説しています。
作業環境中には、ガス・蒸気・粉じん等の有害物質や、騒音・放射線・高熱等の有害エネルギーが存在することがあり、これらが働く人々の健康に悪影響を及ぼすことがあります。これらの有害因子による職業性疾病を予防するためには、これらの因子を職場から除去するか一定のレベル以下に管理することが必要です。そのための第1歩が作業環境の実態を把握し、必要な対策のための情報を得ることであり、それが「作業環境測定」といえます。
労働安全衛生法(安衛法)では「作業環境測定」を「作業環境の実態を把握するため空気環境その他の作業環境について作業環境について行うデザイン、サンプリング及び分析(解析を含む。)」と定義しています(第2条第4号)。
ここでいう「デザイン」とは、測定対象作業場の作業環境の実態を明らかにするために当該作業場の諸条件に即した測定計画を立てることをいい、その内容としては、生産工程、作業方法、発散する有害物質の性状その他作業環境を左右する諸因子を検討して、サンプリングの箇所、サンプリングの時間及び回数、サンプリングした資料を分析するための前処理の方法、これを用いる分析機器等について決定することをいいます。
「サンプリング」とは、測定しようとする物の捕集等に適したサンプリング機器をその用法に従って適正に使用し、デザインにおいて定められたところにより試料を採取し、必要に応じて分析を行うための前処理、例えば、凍結処理、酸処理等を行うことをいいます。
また、「分析(解析を含む)」とは、サンプリングした資料に種々の理化学的操作を加えて、測定しようとする物を分離し、定量し、又は解析することをいいます。
安衛法第65条第1項では、「事業者は、有害業務を行う屋内作業場その他の作業場で、政令で定めるものについて、厚生労働省令で定めるところにより、必要な作業環境測定を行い、及びその結果を記録しておかなければならない」と定められています。
この規定により、事業者が作業環境測定を実施しなければならない作業場は、安衛法施行令第21条で次の10種類の作業場をあげています(厚生労働省令によりさらに限定されているものもあります)。
なお、各作業場ごとの測定項目、測定頻度、記録の保存等については、関係する厚生労働省令に定められています。
安衛法第65条第2項では、これらの作業環境測定は、厚生労働大臣の定める「作業環境測定基準」に従って行わなければならないこと、及び安衛法第65条の2では、そのうち一定のもの作業環境測定結果については、厚生労働大臣の定める「作業環境評価基準」に従って評価を行い、必要な措置を講じなければならないこととされています。具体的にはA測定及びB測定の結果に統計的な処理を行い、管理濃度と比較することにより、第1管理区分、第2管理区分及び第3管理区分の3つの区分に分け、各管理区分に応じた措置を行います。
また、作業環境測定法では、安衛法第65条第1項により作業環境測定の行われる作業場のうち、[1]、[6]のうち放射性物質取扱室及び事故由来廃棄物等取扱施設、[7]、[8]及び[10]を「指定作業場」に指定して、その作業環境測定は「作業環境測定士」によって行われなければならないこととされています(作業環境測定法施行令第1条)。
さて、安衛法第2条第4号の「作業環境測定」の定義からすれば、上述の安衛法第65条の作業環境測定のみならず、新規の設備、原材料、生産方式、作業方法等の有害性の予測や作業環境管理対策の効果の確認を目的とした測定、健康診断結果等から作業環境の実態調査や特定の労働者のばく露量を再検討する必要が生じたときに行う測定、危険・有害な場所への立ち入り禁止等危険防止措置の必要性を決めるための測定、局所排気装置の性能を点検するために行うフード周辺の気中濃度や風速の測定等、目的も方法も異なる種々の測定が含まれます。また、個人サンプラーを用いて行う測定についても、その測定が「デザイン、サンプリング及び分析(解析を含む)」を含む一連の系統的な方法として実施される場合には作業環境測定に該当することとなります。
次図に安衛法第2条第4号の作業環境測定の対象、安衛法第65条第1項により事業者に作業環境測定の実施義務の課せられている作業場、作業環境測定基準に従った測定が行われる作業場、作業環境測定士による作業環境測定が行われる作業場(指定作業場)及び作業環境評価基準に従った評価とその結果による作業環境管理の行われる作業場の関係を示します。