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労働災害事例

鉛溶解炉を用いて鉛インゴットを製造する工程で熱中症

鉛溶解炉を用いて鉛インゴットを製造する工程で熱中症
業種 非鉄金属精練・圧延業
事業場規模 5〜15人
機械設備・有害物質の種類(起因物) 炉、窯
災害の種類(事故の型) 高温・低温の物との接触
被害者数
死亡者数:1人 休業者数:0人
不休者数:0人 行方不明者数:0人
発生要因(物) 温湿度の不適当
発生要因(人) 身体機能
発生要因(管理)

No.1073

発生状況

 この災害は、鉛スクラップを溶解炉で溶融し、鉛インゴット(鋳塊)を製造する工場内で発生したものである。
 この工場における鉛インゴットの製造工程は、次のとおりである。
[1] 鉛スクラップを溶解炉に装入、点火、溶解する。
[2] 溶解鉛を樋の付いたポンプを用いてインゴット成型用鋳型に流し込む。
[3] 鋳型に流し込んだ溶解鉛を水槽と外気で冷却し、凝固させる。
[4] 鉛インゴット表面の滓を除去する。(この作業を「ドロス取り」と呼んでいる。)
[5] 製品となったインゴットを工場内の製品置場に手で持ち運び、積み上げる。(この作業を「運搬」と呼んでいる。)
 災害当日、午前7時35分から5人の労働者が上記の鉛インゴット製造作業を行った。
 被災者は、午前中は溶解炉が加熱された9時ごろから12時までの約3時間、途中40分の昼休みをはさんで、午後も約3時間にわたって、暑熱な場所で、もっぱら「ドロス取り」、「運搬」と「休息」を繰り返す作業に従事していたが、15時50分ごろ鉛インゴット冷却用の水槽のそばでしゃがんでいたのを同僚労働者が発見した。声をかけても返事がなく、救急車を呼んで入院治療を施したが、熱中症にて6日後に死亡に至った。

原因

 この災害の直接原因は、暑熱な場所で長時間作業を行ったことに前日風邪を引いていたための体調不良などが重なって、生理機能に破綻をきたしたことによるものである。
 職場における熱中症は、高温度条件のもとで長時間作業を続けると、体温調節作用が障害されて放熱ができなくなり、体内に熱が蓄積して体温が上昇し、うつ熱状態となり発症する。発症の主因は、高温、換気不良などの作業環境条件、重筋労働、長時間作業などの作業条件及び服装条件が上述した身体的影響を強めることであり、肥満、循環器障害、胃腸障害、疲労、睡眠不足などの作業者の身体的条件及び水分補給不足、栄養不良などの生活習慣がこれを助長する副因となるといわれている。
 本例では、外気温の高い夏場で、しかも鉛溶解炉の輻射熱が加わった高温職場で、午前3時間、午後3時間計6時間にわたって「ドロス取り(鉛インゴット表面の滓除去作業)」「20kgの鉛インゴットを製品置場に運搬する作業」及び「休息」を組合わせた作業を繰り返し行ったことが主因、前日風邪を引いていたこと及び肥満(身長156cm、体重80.0kg、日本肥満学会による標準体重=(身長m)2×22=53.5kgの1.50倍、標準体重の1.20倍以上が肥満体重)などの身体条件が副因となって熱中症が発生したものと考えられる。
 また、間接的な原因としては、熱中症の予防に関する安全衛生教育の不足、健康管理の不良などが挙げられる。

対策

 技術革新に伴い、鉄鋼業などの多くの産業で高温対策、重筋作業の軽作業化、労働時間の短縮などが進み、今日では熱中症対策が必要な職場は少なくなったが、炉のある職場など一部に高温対策が遅れている部門が残っているといわれている。この災害はその一例である。
 本例では、外気温の高い夏場に、しかも鉛溶解炉の輻射熱が加わった高温職場で、長時間にわたって「ドロス取り(鉛インゴット表面の滓除去作業)」「20kgの鉛インゴットを製品置場に運搬する作業」及び「休息」を組合わせた作業を繰り返し行ったことが主因、前日風邪を引いていたこと及び肥満などの身体条件が副因となって熱中症が発生したものとみられているが、同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が望まれる。
1 作業環境の改善
 (1) 作業場の温熱条件の改善
(2) 休憩室の冷房
2 作業方法の改善
 (1) 重筋作業の軽作業化
(2) 休息・休憩時間の適正化
3 個人防護措置
 (1) 適切な水分、塩分の補給
(2) 肥満防止、食生活の改善などを含む健康管理
4 健康教育の実施