航行中の漁船の機関室内において、ラジエーターに冷却水を補給する作業をしていた船長が熱中症にかかる
業種 | 漁業 | |||||
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事業場規模 | 16〜29人 | |||||
機械設備・有害物質の種類(起因物) | 高温・低温環境 | |||||
災害の種類(事故の型) | 高温・低温の物との接触 | |||||
被害者数 |
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発生要因(物) | ||||||
発生要因(人) | ||||||
発生要因(管理) |
No.100870
発生状況
この災害は、総トン数9tの漁船を操船して航行中、機関室内においてラジエーターに冷却水を補給する作業中に発生したものである。
被災者は、6隻で構成される漁船のうち、船長として小型船の操船を行っていた。 災害が発生した日、6隻の漁船は、午前3時頃、1回目の漁を行うため漁場に向かい、午前7時頃に帰港し、朝食をとった。 午前8時頃、被災者は、漁師4人を乗せた小型船を操船して漁場に向かい、漁場にある浮き子の交換を行った。 帰港途中、2回目の漁を行うため漁場に向かう他の漁船に漁師4人が乗り移り、被災者は一人で帰港することとなった。被災者は、帰港途中、僚船に午後1時に漁場に行く旨の無線連絡行っていた。 その後、被災者の操船する小型船が漁場に到着しないので無線連絡したところ何の応答もなかったので、僚船が海上を捜索したところ、エンジンが停止して漂流している小型船を発見した。被災者は、小型船の機関室内で膝を抱えてしゃがみ込み、ほとんど意識のない状態で発見された。 直ちに、無線で救急車の手配をし、小型船を漁港に曳航して病院に被災者を搬送したが、熱中症により死亡したものである。 |
原因
この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。 | |
1 | エンジン表面が80℃に達しており、機関室内は気温が40℃、湿度が90%を超える状況であったこと。 |
2 | ラジエーターに冷却水を補給するため、高温多湿の機関室に入ったこと。 |
3 | ラジエーターのふたを機関室底部に落とし、拾い上げるのに手間取り、高温多湿の機関室内に相当時間とどまっていたため、高温多湿の環境にばく露されたこと。 |
4 | 単独で操船していたことから、救出が遅れたこと。 |
5 | 被災者の操船する小型船が漁場に到着する予定時刻を大幅に経過していたが、僚船からの小型船への連絡が行われていなかったこと。 |
6 | 被災者は、高血圧症、胃潰瘍などにより通院治療を受けていたことから、身体的に不調をきたし熱中症に罹(り)患しやすい状況にあったものと考えられること。 |
7 | 漁船員に対して、熱中症の症状、熱中症の予防方法、緊急時の救急措置、熱中症の事例などについて労働衛生教育を実施していなかったこと。 |
対策
同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。 | |
1 | 機関室への立ち入りについては、エンジンを停止し、機関室内の温度が確実に低下したことを確認した後に機関室へ立ち入ること、機関室内を換気することなどの措置に関するマニュアル類を整備すること。 |
2 | 船内に温度計および湿度計を備え付けること。 |
3 | 船内にスポーツドリンクを備え付けるなど水分や塩分を容易に補給できるようにすること。 |
4 | 冷却水の補給は、少なくとも、航行中に行う必要のないものとし、日常および定期的な点検を実施し、異常を認めたときは補修を確認してから操船すること。 |
5 | 操船は、複数の乗船員により行われることが望ましいこと。 |
6 | その日の、作業スケジュールを作成し、連絡網を確立して、異常事態を早期に把握するための無線連絡を密に行うこと。 |
7 | 魚船員の健康状態を把握するなど適切な健康管理を行うこと。 |
8 | 漁船員に対して、熱中症の症状、熱中症の予防方法、緊急時の救急措置、熱中症の事例などについて労働衛生教育を実施すること。 |