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労働災害事例

コンデンサー製造工程で発散したピロール蒸気により17名の作業者が薬物性肝障害

コンデンサー製造工程で発散したピロール蒸気により17名の作業者が薬物性肝障害
業種 その他の電気機械器具製造業
事業場規模 300〜999人
機械設備・有害物質の種類(起因物) 危険物、有害物等
災害の種類(事故の型) 有害物等との接触
被害者数
死亡者数:0人 休業者数:16人
不休者数:1人 行方不明者数:−
発生要因(物) 有害物のガス、蒸気、粉じん
発生要因(人) 危険感覚
発生要因(管理) 有害な場所に近づく

No.100373

発生状況

 この災害は、コンデンサー製造工場において、新たに開発されたコンデンサー製造ライン立ち上げ作業中、作業者がピロール蒸気にばく露し、薬物性肝障害になったものである。
 X電気系列のY社ではX社で新たに開発されたコンデンサーの製造を行うことになり、X社の指導により新しくコンデンサー素子の重合室内(気積711.62m3)に重合装置、洗浄乾燥装置等機械設備を設置し、立ち上げ運転を開始した。作業工程は(1)薬剤溶液の小分け、調合作業、(2) 酸化剤浸漬装置に 酸化剤を注入後、製品をセットして酸化処理、(3)重合A装置にビーカーに小分けしたピロールを注入後、蓋をして1時間以上放置してから蓋を開け、製品をセットして重合A処理、(4)洗浄乾燥装置に製品をセットして洗浄乾燥、(5)重合B装置により処理液およびピロールを使用して重合B処理の順に行われた。
 立ち上げ作業開始後10日程して、作業が重合処理工程の本格運転に入ると、気温が急に上昇し、重合室内に異様な臭いがするようになり、作業者3名が肝機能異常により体調不良で休業した。さらに同工程の作業者69名の肝機能検査の結果、14名の異常者が発見された。防毒マスクは使用していなかった。

原因

 この災害は、ピロール蒸気にばく露し、薬物性肝障害になったものであるが、その原因としては、次のようなことが考えられる。
1 作業場所内に重合装置で使用していたピロール液の蒸気が拡散したこと
2 重合A装置の内部はピロール蒸気が充満していたが、製品を出し入れするときおよびピロール液を交換するときに装置の蓋を開けピロール蒸気に曝されたこと
3 ピロール原液をビーカーに小分けする作業場所の全体換気が不十分であったこと
4 重合A装置の局所排気装置の能力が不足していたこと
5 ピロール蒸気にばく露される作業に防毒マスクを着用せずに従事したこと
6 重合B装置の内部もピロール蒸気が充満していたが、装置内への製品の出し入れ、重合の途中での薬剤の追加、重合液のサンプリング等の作業を防毒マスクを着用せずに行ったこと
7 原料液調合作業をピロール蒸気が発散している重合室内において行ったこと
8 作業場所の換気装置の換気能力が不十分で、ピロール蒸気を排気できなかったこと
9 安全衛生管理が不十分であったこと

対策

 この災害は、作業者がピロール蒸気にばく露し、薬物性肝障害になったものであるが、同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。
1 機械設備を新設するときはリスクアセスメントを行いリスクの絶滅低減を図ること
2 MSDSにより化学物質の有害性を調査し、それに基づく作業標準を作成すること
3 重合Aおよび重合Bの工程を密閉型とし全自動・遠隔操作によって作業をすること
4 重合装置の槽に逆流凝縮器を設置し、ピロール蒸気を槽に還流するようにすること
5 重合装置の局所排気装置は漏出するピロール蒸気を全て排出できるものとすること
6 作業室内のピロール蒸気を希釈するため、全体換気装置の換気能力を向上させること
7 労働衛生管理体制を充実すること
 特に衛生工学衛生管理者又はこれと同等以上の能力を有する者を選任し、設備の管理に当たらせること
8 作業環境測定を毎月実施し、その結果に基づき設備および環境の改善を行うこと
9 作業者に労働衛生教育を実施すること