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水力発電所の塗装修理工事での有機溶剤中毒

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発生状況 本災害は、水力発電所の発電機定期修理工事の関連工事として行われていた水路等の塗装作業において、濡れていた塗装予定箇所を布切れで拭いていた作業者2名が、前日の塗装作業によって発生していた有機溶剤の蒸気により有機溶剤中毒となったものである。
 この有機溶剤中毒災害は、水力発電所の発電機の定期修理に伴い実施された水路等の塗装作業の関連作業中に発生した。
 災害発生場所は、発電機を回すための水車の下部に位置する空間で、発電時には水車を回した水が放水用のゲートまで導かれる水路となる箇所であり、「ドラフト」と呼ばれている。
 ドラフトは放水用のゲート付近がコンクリート構造である以外は鋼製であるために、その部分については、定期的に行われる発電機の定期修理に際して古い塗膜をはがして新たに塗装が行われている。
 ドラフトの上部は発電機用水車によりほぼ塞がれた状態で、下部についても放水用のゲートが塞がれているので自然の通気はほとんどない状態である。
 ドラフト内では、災害発生の3日前に作業資材の搬入と作業用の仮足場の架設が行われ、災害発生の2日前に塗装対象箇所の古い塗膜をはがす下地処理がサンドブラストにより行われていた。
 災害発生の前日にはドラフト内部の塗装が行われたが、塗り残しと塗装不良箇所が生じたために、災害発生当日には当該塗り残し及び塗装不良個所の仕上げ塗装を行うこととなっていた。
 災害発生当日、作業の日程としては午前中は現場の整理と塗装の準備を行い、午後に塗装を行う予定で、現場責任者(甲)と被災者2名(乙、丙)との3名で午前9時30分頃にドラフト内に入った。
 3名は、まず、前々日のサンドブラスト作業で発生した塗膜かすやさび、砂等をスコップで塗装不要であるコンクリート構造の箇所に集め、同時に塗装予定個所に漏洩してくる水を土のうにより止める作業を行ったが、この作業に正午前までかかった。
 3名はドラフトから外に出て昼休憩を取った後に、午後1時ころに再びドラフト内に入り、水で濡れている塗装予定箇所をウエス(布切れ)で拭いて乾かす作業を始めたが、午後2時頃に一通り拭き終わったところでウエスが足りなくなり、甲がウエスを取りにドラフトの外に出た。
 約15分後に甲がドラフト内に戻ったところ、ドラフト内にいた乙、丙の2名は、乙は座り込み、丙は横になったまま動けなくなっていた。
 甲は発電所内で作業していた他社の作業者らの応援を得て2名をドラフトの外に運びだし、病院に連れて行った。
 検査等結果から、2人とも有機溶剤による中毒と診断された。
 災害発生当日の午後からは、低い姿勢で作業をしていたために空気よりかなり重いトルエンやキシレン(いずれも蒸気密度が空気の3倍以上)を吸い込んで中毒したものとみられる。
 災害発生の前日の作業では、塗料(トルエン約5%含有)をシンナー(トルエン約45%、キシレン約25%他含有)で希釈をしたものを使い塗装したが、3名とも防毒マスクを着用し、換気のために送風機を設置して接続した直径50cmのホースをドラフトの入り口から約1m下に降ろして排気しながら作業していた。
 災害発生当日も防毒マスクを用意していたが、塗装作業ではなく塗装の準備作業ということで防毒マスクは使用せず、3名とも臭いとほこりを避けるための活性炭入り簡易防じんマスクを使用しており、換気のために設置した送風機は前日からそのまま稼働させていた。
 なお、この簡易防じんマスクは国家検定を受けておらず、取扱説明書の注意書きには労働安全衛生関係法令に規定される業務には使用できない旨が記されているものであり、粉じん業務にも有機溶剤業務にも使用できないものであった。
 また、換気装置についても、ドラフト下部までホースを伸ばすと圧力損失のために吸引できなくなるため、ホースの長さを短くして使用しており、ドラフト下部の有機溶剤を排出する能力を有するものではなかった。
 その上、この水力発電所の発電機定期修理工事では、塗装工事についても元請会社の現場監督が工程や作業方法の管理を行うこととなっていたが、有機溶剤作業主任者の選任等についての確認は行われておらず、実際に、この作業において有機溶剤作業主任者は選任されていなかった。
 さらに、被災者の乙、丙は、塗装作業を請け負っている会社が約2ヵ月間の契約で雇っている者であり、有機溶剤業務、酸素欠乏作業等に係る安全衛生教育を全く受けていなかった。
原因 (1) ドラフト内部に有機溶剤の蒸気が充満していたにもかかわらず、適切な呼吸用保護具を使用しないまま作業を行ったこと。
(2) タンク等の内部における有機溶剤業務を行うに当たり、十分な性能を有し、かつ、有効な換気装置を設置していなかったため、前日の塗装作業により発生した有機溶剤の蒸気をドラフト外に排出できなかったこと。
(3) 工事の安全管理実務において、有機溶剤作業に対する危険防止対策を講じておらず、作業者に対する有機溶剤中毒の防止のための教育が不十分であったため、現場で誤った判断の下に作業が行われたこと。
対策 (1) タンク等の内部において有機溶剤業務を行う場合及び有機溶剤の蒸気が充満しているおそれのあるタンク等の内部で作業を行う場合には、当該タンク等の形状及び有機溶剤等の使用条件にあった適切な換気装置の設置及び適切な呼吸用保護具の使用の措置を講ずること。
 なお、ドラフト内部は有機溶剤中毒予防規則第2条第1項第1号に規定する「タンク等の内部」に該当するところの、「地下室の内部その他通気が不十分な屋内作業場」に当たるものであり、少なくとも全体換気を行い、かつ、送気マスク又は有機ガス用防毒マスクを使用する必要がある。
(2) 有機溶剤業務を行う場合は有機溶剤作業主任者を選任し、その者に作業に従事する者が有機溶剤中毒とならないよう必要な職務を履行させること。
(3) 有機溶剤業務従事者に対して、有機溶剤中毒防止のための教育を実施して有機溶剤等の危険性及び危険防止対策等の知識を修得させること。
(4) 作業についてセーフティアセスメントを行うとともに、各級管理者に対し、現場における安全衛生管理についての教育を行い、組織的な安全衛生管理活動の推進を図ること。
(5) その他、作業場所の状況、使用する原材料等に応じ、酸素欠乏症、特定化学物質による中毒、爆発・火災等に対する対策も併せて講ずること。
業種 建築設備工事業
事業場規模
機械設備・有害物質の種類(起因物) 有害物
災害の種類(事故の型) 有害物等との接触
建設業のみ 工事の種類 建築設備工事
災害の種類 中毒
被害者数
死亡者数:− 休業者数:2人
不休者数:− 行方不明者数:−
発生要因(物)
発生要因(人)
発生要因(管理)
NO.1019
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