この災害は、伐木・造材のため単独で作業を行っていた作業員が、伐倒木の枝払い作業中にチェーンソーで自分の左の大腿部を切ったものであるが、同種災害の防止のためには次のような対策の徹底が必要である。
1 作業手順等の徹底
  (1) 伐倒木などが重なりあった場所で枝払い作業を行うときには、あらかじめ、潅木などを取り除き、材の安定を確認し、足場を確保してから行うこと。
 作業の手順として、多数の立木を連続して伐倒してから、あとでまとめて枝払い作業をする方法は、いわゆる『ため枝』が多くなり、伐倒木も重なりあって不安定な状態となるのでできるだけ避けること。
(2) 傾斜地での枝払い作業は、原則として山側に位置して行い、浮石などはあらかじめ取り除き、伐倒木などを支えた状態になっているいわゆる『支え枝』は、杭止めなどで材の安定を確保してから切るようにすること。
 なお、転動、転落などのおそれのある材や浮石で、取り除くことができないものについては、杭止めなどで安定させておくことが望ましい。
 また、『支え枝』のある材で安定させることが困難な場合は、集材作業で材を動かしてから枝を切ることが望ましい。
(3) 転倒、転落などのおそれのある材の上では、枝払い作業は行わないこと。
 特に、伐倒材が地上から高く浮いている状態にある材の上での作業は、墜落災害のおそれがあり、また、径の細い材の上では、足場が狭く不安定なので行なわないこと。
 なお、このような状態であって伐採現場での枝払いが困難な場合には、集材作業で材を動かしてから枝払いを行うことが望ましい。
(4) 跳ね返るおそれのある『ため枝』は、「のこ目」を入れて枝のはねかえるのを弱めてから、枝払い作業を行うこと。
 『ため枝』は、内側から「のこ目」を入れ、次に外側から切って跳ね返りが生じないようにしておくと安全である。
 また、長い枝は、枝の裂け、跳ね返りなどを防ぐため、一度に切り落とさずに、半分程度の長さに切ってから、根元を切り落とすようにすると安全である。
2 緊急連絡体制の整備等
  (1) 労働省が定めた『林業の作業現場における緊急連絡体制の整備等のためのガイドライン』等に基づいて、緊急連絡体制の整備を図ること。
 林業の作業現場は、居住地域から離れた山林内であることが多く、また、本件の災害のように、作業員が離れた場所で単独で作業を行っていることが多いことから、一度災害が発生した場合には、その発見が遅れ、被災者の救護も遅れて、そのために重篤な被害となることも少なくない。
 今回の災害の場合には、被災者は自分で声を出して救助を求めていたが、たまたまこの声を聞いた別の作業員がいたために救助に向かうことができたものである。
 このような場合に備え、離れて作業している者の相互間の連絡方法として、日頃から、呼子、トランシーバーなどを備えておき、より早く、かつ、正確に連絡がとれるよう訓練しておくことが重要である。
(2) 被災者などの移送の方法を定め、その手段を確保しておくこと。
 今回の災害では、被災者を救急車が来ているところまで運ぶために、作業員たちが被災者を担いで山道を運んでいるが、このような場合に備えて移送の方法を定めておき、そのために必要な用具などを準備しておく必要がある。
(3) 救急用品などを現場内に常備しておくこと。
 今回の災害で、多量に出血していた被災者を発見したとき、現場監督は、その場でタオルを裂いて止血の応急処置をしている。
 このような措置は、臨機の応急処置としては適切であったと思われるが、本来は、このような場合に備えて、救急用品などを常備しておくとともに、応急処置の方法などについて日頃から訓練しておく必要がある。