この災害は、農地造成工事で造成した農地から出る白濁水の処理装置の改造工事において、汚水処理タンク内で発生した硫化水素により中毒死したものであるが、同種災害の防止のためには次のような対策の徹底が必要である。
1 タンク内の危険有害性の確認
 汚水処理施設のタンクの内部は、多くの場合、酸素欠乏危険、硫化水素による中毒のおそれが高いところであり、その日の作業の開始前に必ずタンク内の酸素濃度等を適正な測定器を用いて測定し、その結果について記録、保存しておく必要がある。
 なお、記録しておくべき事項は、測定日時、測定方法、測定箇所、測定条件、測定結果、測定の実施者、測定結果に基づいて対策を講じたときはその概要であり、同じ場所等について作業を行なうときにはその結果を確認するとともに、測定器具等を携行することが重要である。
2 タンク内の換気
 タンク内の酸素濃度等の測定の結果、酸素濃度が18%以下、硫化水素濃度が10PPM以上である場合には、それぞれの値以上または以下になるよう換気をした上でタンク内に入るようにしなければならない。
 なお、測定数値がそれ以上または以下の場合であっても、換気をすることが望ましく、また、換気に純酸素を使用してはならない。
 また、換気によって爆発、酸化等が生ずる場合、作業の性質上換気が著しく困難な場合には、空気呼吸器、酸素呼吸器、送気マスク等を用意し、使用させなければならない。
3 酸素欠乏危険作業主任者の選任
 酸素欠乏危険作業を行なう場合には第一種酸素欠乏危険作業主任者、硫化水素中毒の危険がある作業を行なう場合には第二種酸素欠乏危険作業主任者を選任し、次のことを実施させなければならない。
  [1] 作業者が酸素欠乏の空気等を吸入しないように、作業方法を決定し、作業者を指揮すること。
[2] その日の作業を開始する前、作業者が一旦作業場所を離れ再び作業を開始するとき、作業者及び換気装置に異常があったときに、作業場所の酸素濃度等を測定すること。
[3] 測定器具、換気装置、空気呼吸器等作業者が酸素欠乏等にかかることを防止する器具、設備を点検すること。
 なお、酸素欠乏危険作業主任者は、一定の技能講習を修了した者でなければならない。
4 特別教育の実施
 酸素欠乏危険作業、硫化水素中毒の危険がある作業に従事する作業者については、酸素欠乏等の発生原因、酸素欠乏症等の症状、空気呼吸器等の使用方法、事故の場合の待避及び救急そ生の方法等について特別教育を行なう必要がある。
5 監視人の配置
 酸素欠乏危険作業等に作業者を従事させるときには、常時作業を監視し、異常があったときに酸素欠乏危険作業主任者及び関係者に通報する監視人を配置する必要がある。
6 立入禁止と退避
 酸素欠乏等危険のある場所への指名した者以外の立ち入りを禁止するとともに、作業中異常があったときには作業者を直ちに退避させることが重要で、そのための訓練も大切である。
7 二次災害の防止
 酸素欠乏等危険のある場所で事故、労働災害があった場合、救出のため無防備で飛び込み二次災害を受けることが少なくない。
 そのため、救出の際に必要な知識の付与、救急用装備の用意と訓練を十分に行なっておくことが必要である。
8 安全衛生管理体制の整備等
 汚水処理場の処理施設等の整備等を行なう会社は、常に作業環境、作業条件の異なるところで作業を行なうことが多いので、まず、会社としての安全衛生管理体制の整備を行なって教育、点検等の計画的な安全衛生活動を行なうとともに、作業現場における指揮命令者の明確化、作業マニュアルに沿った作業の遂行等を徹底することが重要である。