この災害は、電気の専門家であり、また、管理的立場にある者が単独で電気室に入り感電死したものであるが、同種災害の再発防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。
1 作業計画の策定
 電気設備や電気回路の点検・修理を行なう場合には、事前に作業場所の電気機器の配置、回路、周辺状況等を詳細に調査の上、作業の指揮者、作業の方法と手順、必要な人員、必要な絶縁用保護具・防具等について作業計画を策定し、関係者に周知徹底することが重要である。
 なお、ビルメンテナンス会社のような場合には、管理するビルによって設備の新旧等によって充電部分の露出度等でかなりの違いがあるので、夫々の実態に合った作業計画を作成する必要がある。
 また、請負契約で仕事を行なう場合には、金額のみでなく、仕事の期間・時間、範囲、作業の指揮者等についても明確にしておくことが重要である。
2 停電作業の原則
 高圧電路の点検・修理については、電路を停電して実施することが原則であり、作業計画もそれを原則として策定することが望ましい。
 なお、停電作業を行なう場合でも次のような措置を講ずることが必要である。
  (1) 開路した開閉器等が投入されないように施錠、投入禁止の表示、監視人の配置等を行なうこと。
(2) 開路した電路にコンデンサー等が接続されている場合には、残留電荷を確実に放電すること。
(3) 検電器具により停電を確認し、かつ、短絡接地を行なうこと。
3 絶縁用保護具の着用等
 やむを得ず活線のまま作業を行う場合には、次のような措置を講ずることが必要である。
  (1) 作業者に絶縁用保護具を着用させ、作業点以外の部分には絶縁用防具を装着すること。
(2) 活線作業用器具、活線作業用装置を用いて作業を行なうこと。
4 絶縁用防具の装着等
 電気室内の電気設備であっても充電部が露出していない機器に変更することが望ましいが、高圧の充電電路に接近(頭上30センチメートル以内、躯側又は足下60センチメートル以内)して電路、電気設備等の点検、修理、清掃等を行なうときには、絶縁用防具を装着する必要がある。
 なお、作業者に絶縁用保護具を着用させたときには、防具の装着を略することも可能ではあるが、作業中に絶縁用保護具を装着した以外の部分が充電部分に接触する危険も少なくないので防具は装着しておくことが望ましい。
 また、絶縁用保護具、絶縁用防具については、定期的に絶縁性能について検査するとともに、その日の使用を行なう前に、必ず、ひび、割れ、破損、乾燥状況等について点検することを忘れてはならない。
5 作業手順の徹底
 電気室内、電路等の充電部に接近して行なう作業等については、作業の順序、必要な防具・保護具の使用方法、停電、開閉器の再投入方法等を含んだ作業手順を定め、作業者に徹底しておくことが必要である。
 なお、電気室内の設備の更新等が行なわれた場合には、作業手順の見直しと訂正も忘れてはならない。
6 安全教育の実施
 専門家であるが為に、慣れが原因で手順の省略や錯覚を起こすことも少なくないので、繰り返し電撃の危険性、作業手順等について教育を実施することが必要である。
7 保守管理体制の明確化
 ビルメンテナンス会社による電気設備等の管理に関し、電気主任技術者等の有資格者の届出が義務づけられるが、書類上合法的であっても常駐しないような場合、実態の把握さえ十分でないことが多い。
 したがって、資格者としての任務が全うできるような管理体制の整備と任務の明確化を図り、定期的な巡回等に努めることが必要である。