この災害は、レストランの経営者が「じゅうたん」の床への張り付けのためホームセンターから購入して使用した接着剤に含有されていたトルエン、ノルマルヘキサン等の有機溶剤蒸気が、じゅうたんの張り付け作業中に密閉された店内に充満し、灯油ストーブの火で引火し炎上したものと想定されるが、同種災害の再発防止のためには、次のような措置の徹底が必要である。
 なお、この災害は、一般市民が通常行なうような作業で発生しており、単に事業者による労働災害の防止と言う観点のみでなく、接着剤等を販売、提供する側においても特別の配慮が必要になってきたことを教示してくれている。
1 換気の徹底
 引火性の有機溶剤を含有する接着剤等を室内で使用する場合には、必ず全ての窓を開放し、また、強制換気のためのファンの設置等が必要である。
 なお、多量の接着剤等を使用する場合には、素人が行うことは危険であるので、専門の業者に依頼することが望まれる。
2 危険・有害性の表示と確認
 接着剤に含まれているトルエン、ノルマルヘキサン、酢酸エチルは全て労働安全衛生法令別表第6の2に規定されている第二種有機溶剤であり、容器等には労働安全衛生法第57条の規定により次の内容の表示が義務付けられている。
  (1) 名称
(2) 成分及び含有量
(3) 人体に対する影響
(4) 貯蔵または取扱上の注意
 したがって、購入に際しては、これらの表示がなされているか杏かの確認を行うとともに、特に取扱上の注意事項に従って使用することが重要である。
 なお、この災害の場合には、日本語が読めない外国人が購入したものであるため、表示がなされていても効果は期待できなかったが、今後は、顧客として外国人が多く出入りするホームセンター等においては危険有害物の販売に際し、使用方法についての知識の有無、日本語の読解力等を確認し必要な助言を行うこと、あるいは製品の仕入れに際し出入りする顧客の国に対応した外国語の説明書を取り寄せておき、販売に際しそれを提示すること等の配慮が必要になってきている。
 そのためには、販売を担当する従業員に対しても販売する製品の危険有害性に関する安全衛生を実施しておくことも重要である。
3 火気の厳禁
 引火、爆発の危険がある雰囲気が形成されたとしても火気がなければ事故には発展しないので、密閉された室内等で引火性の物質を取り扱うときには、点火源となる灯油ストーブ等火気の使用は絶対に禁止する必要がある。
 本来、このような場所では、電気機械器具等も点火源となることがあるため、防爆型の物を使用する必要があるが、この災害のような場所、あるいは臨時の作業では使用されていることはないので、最低限ストーブ、コンロ等の火気の使用は禁止しなければならない。
4 代替物の使用
 一般市民が危険有害なものを使用し、それに対応した災害の防止措置を行うことは困難であることから、接着剤の必要がない「じゅうたん」の使用や有機溶剤を含有しない接着剤等代替物の使用が望ましい。
5 保護具の使用
 この災害は有機溶剤による火災という形で現れたが、有機溶剤に中には引火爆発等の危険のほかに急性中毒等人体に有害なものも少なくないので、換気が不十分な場所で有機溶剤の含有する多量の接着剤等を使用する場合には、換気についての措置を十分に行うとともに、夫々の毒性に対応した防毒マスクを使用する必要がある。
 なお、その前提となるのは、使用する物質の有害性の確認であり、購入に際してその確認を確実に行うシステムや習慣を身につけておくことが重要である。
6 避難訓練等
 この災害においては、自力で店外に脱出したのは1名のみで、突発的な事態に出入口を誤ったと考えられる者もいた。
 当時自宅にいた日本人は、防火管理者の講習も修了していたが特別に避難訓練も実施していなかった。
 万一に備えての消火訓練、避難訓練は定期的に行っておく必要がある。