この災害は、発進立坑内から機材を回収する作業を行っていたとき、クレーンのジブまたは巻き上げワイヤロープが架空送電線に触れたか、架空送電線への接近による閃絡により、操作レバーを介してオペレーターが感電したものである。
一般的に、この種の災害を見ると、クレーン運転者は作業開始前に送配電線などの存在を確認しているが、作業中はつり荷やフックの動きに気をとられ、送配電線などに対する注意がおろそかになり、ジブや巻上げワイヤロープが送配電線に接近しても気づかず、感電災害が発生している。
このような災害を防止するためには、次のような対策の徹底が必要である。
1 安全離隔距離の保持
移動式クレーンのジブやワイヤロープなどと送配電線の充電部分とは、送電線の電圧に応じて、次の表に示す離隔距離を確保すること。
電路の電圧
離隔距離
特別高圧
2m以上
ただし、60,000V以上は10,000V又はその端数を増すごとに20cm増し以上
高圧
1.2m以上
低圧
1m以上
2 防護柵などの設置
移動式クレーンなどのジブ、ワイヤロープなどが目測上の誤差などにより、この離隔距離内に入ることを防止するため、移動式クレーンのジブの起伏、旋回範囲などの稼働範囲を抑制するための防護柵、接近警報装置、ゲート式制限標識、ジブの起こしすぎ制限標識、接近防護標識などを設けること。
3 監視責任者の配置
移動式クレーンを使用する作業について的確な作業指導をとることができる監視責任者をその作業現場に配置すること。
4 電力会社との連携
この種の作業計画の作成に際しては、事前に、送配電線類の所有者である電力会社と作業の日程、方法、防護措置、監視の方法、送配電線の所有者の立会いなどについて、十分打ち合わせることが望ましいこと。
5 作業手順の周知徹底
関係作業者に対して、感電の危険性を十分周知させるとともに、その作業手順を定め、関係作業者に対し、その作業手順を周知徹底すること。また、この作業手順により作業が行われるよう必要な管理や指導を行うこと。
なお、移動式クレーンを用いて作業を行うときには、あらかじめ、その作業を行う場所の広さ、地形および地質の状態、運搬しようとする荷の重量、使用する移動式クレーンの種類および能力などを考慮して、移動式クレーンの転倒、旋回体によるはさまれ、荷の落下、架空電線への接近または接触による感電などによる危険を防止するため、次の事項を定めなければならないことがクレーン等安全規則に定められている。
[1] 移動式クレーンによる作業の方法
[2] 移動式クレーンの転倒などを防止する方法
[3] 移動式クレーンによる作業に係る作業員の配置および指揮の系統
6 使用するクレーンの選定
クレーンの選定に際しては、使用する場所の広さ、架空送電線までの距離などを考慮して、可能なかぎり架空送電線まで構造的に届かないようなジブ長さのものなどを選定すること。
7 施工計画段階での安全確保
施工計画の段階で、施工場所の決定の際に、架空電線路からできるだけ離れた場所を選定することに努めること。
8 安全管理体制の充実
作業手順の作成、安全管理計画の作成などが、あらかじめ、施工計画とともに作成される仕組みを構築し、その仕組みにのっとり運用されるチェック体制も併せて構築すること。
9 現場巡視の実施
作業の安全を確保するための現場巡視を実施し、設備・機械などの不安全状態ならびに作業姿勢および作業行動などの不安全行動を点検し、危険の芽を摘み取ること。
10 現場監督者教育の実施
現場監督者に対して、作業手順の確実な励行、防護対策の確実な実施など現場における安全管理の進め方についての教育を実施すること。