建設現場における作業効率促進のため、施工方法の標準化は、各施工業者毎に作製されており、施工性及び安全性の向上について、成果が上げられている。
 しかしながら、本災害が発生した箇所の様に、階高が約6mになる建築物については、標準化の範疇に納まらない事も少なくない。
 本災害は、この様な特殊な部分で発生した。
 同種災害の再発防止のためには、次のような対策の徹底が望まれる。
1 施工計画の整備
  a) 本建設現場においても標準化が計られており、型枠支保工の組立図についても、標準組立図として次の2種類が作成されていた。
  1 パイプサポートを支保工とするパターン
2 ステージ組立(鋼管枠組)を支保工とするパターン
 しかし、被災部分は、支保工の高さが最大で5.4mとなる部分で、標準組立図では対応できない部分であった。それにもかかわらず、被災分の組立図を新たに作成する事を怠り、予め作成してあった標準組立図で対応できるかどうかの検討を充分にしないまま、パイプサポートを支保工にするパターンを採用してしまった。
 この様に標準化できていない部分を施工する場合については、新たに構造的な安全性を確認する必要があり、たとえ標準化できている部分であっても、安全性の確認を怠ってはならない。
b) 小梁の真下に、腰壁がある関係上、2本1組の支保工(サポート)の内、1本は、腰壁に接触しないように、斜めに設置していた。通常、垂直部材を用いる場合、極力垂直に施工する事が望ましく、やむを得ず傾斜させる必要がある場合には、特別な配慮及び検討をする必要がある。
c) スラブ下の型枠は、水平支保梁(ペコビーム)を使用していた。ペコビとによって、作業空間を確保する事が容易になるが、支保工1本当たりに生じる負担荷重が大きくなる傾向にあるため、支保工の配置計画には、特別な配慮及び検討をする必要がある。
d) 階高が高い車路スロープに設置された支保工は、高さが足りなくなるため、補助サポートを2本使用し、3本継ぎで組み立てられていた。一般に構造部材は単独で使用するのが望ましく、継ぎ手を多く取れば、その分弱点が多くなると考えるべきである。その対策として、数量を増す、水平補剛材を充実させる、継ぎ手の剛性、強度を充分に高める等の配慮が必要となる。
2 施工実施上の問題
  a) 「パイプサポートを支保工にするパターン」の標準図では、ペコビームの荷重を受ける小梁下の支保工の間隔は、45cmとなっていたにもかかわらず支保工を組み立てた作業者は、90cm間隔で組み立てていた。施工者は組立図に基づき、正確に施工を行わなければならない。
b) 支保工の横変位を防止するための水平材は、直角2方向に各2段(2m以内に)設けられていたが、小梁に直交する方向の水平材は、壁まで達しておらず、支保工の横変位防止に寄与できていない状態であった。さらに、水平材の数もサポート数本ごとにあり、不足していた。これについても前記同様、施工者は組立図に基づき、正確に施工を行わなければならないと共に、それぞれの部材が果たす役割を充分に理解していなくてはならない。
3 施工管理体制の不備
  a) 支保工組立後の点検については、形式的に点検されているだけで、支保工の間隔、水平つなぎの不備等について、確認していなかったが、確実に確認する必要がある。
b) コンクリート打設前の支保工の点検を実施していなかったが、充分に確認する必要がある。
c) 本災害に関して、特に技術的な事項について、安全管理上の問題があると考えられる。単に、組立図通りに施工が行われているかの確認にとどまらず、施工結果が安全であるか否かの判断ができる施工管理者の育成が必要であろうと考えられる。