放射線装置のメーカーにおいては、装置製造・検査技術者はユーザーにおける操作者よりも高エネルギーの放射線に被爆のおそれのある作業に従事しなければならない場合が少なくない。本件災害は、エックス線発生装置メーカーの完成時検査における漏洩エックス線検査を行った検査技術者が高エネルギーのエックス線被爆事故に遭ったものであるが、この検査はユーザー段階の操作と異なり、フェイルセイフ機構を解除して行わなければならない等のため危険度が高い作業であった。
 この被爆事故の直接原因は、漏洩エックス線が確認された場合の非定常作業として行った「エックス線発生装置の線源部を覆っていたシャッター取外し作業」に関する安全作業の標準化がなされていなかったため、その作業手順中、電源OFFの基本動作を省略したままエックス線照射経路に手を入れるという不安全行動につながったことであるが、同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が望まれる。
1 安全衛生管理体制の整備
 安全衛生委員会の活性化及びエックス線装置製造・検査部門におけるライン管理者の日常の安全衛生管理活動の活発化
2 作業標準の整備と徹底
  (1) エックス線を発生中は線源部のシャッターを取外さないこと
 検査者による装置の状態確認とシャッタートラブルのための対処方法を定め、関係者に周知徹底する。
(2) エックス線装置の線源部のシャッターを取外す場合の作業基準を設けること
 シャッターのトラブル発生時の作業基準を定め、関係者に周知徹底する。
(3) エックス線漏洩検査の作業標準を整備すること
 以下に掲げる事項を内容とする漏洩エックス線検査作業標準を定め、関係者に周知徹底する。
  [1] 「シャッター閉のとき」の漏洩エックス線の確認方法
[2] 「シャッター開のとき」の漏洩エックス線の確認方法
3 安全衛生教育訓練の実施
  (1) 検査者その他の放射線業務従事者に対する安全衛生教育訓練の実施
 以下に掲げる事項を内容とする教育訓練を計画的に実施する。
  [1] 放射線業務の危険有害性に関する再教育
[2] エックス線による外部被爆の防護の原則(遮蔽、距離、時間)と個人防護措置
[3] 被爆管理の方法、健康管理(メディカル・サーベイランス)の必要性
(2) 放射線業務従事者に対する危険予知活動の定着化
 エックス線検査・調整作業等高エネルギーの放射線に被爆のおそれのある作業に従事する検査者等を対象として、以下に掲げる危険予知(KY)訓練を実施し、その定着化を図る。
  [1] 複数の作業者で作業を行う場合、「エックス線ON、OFF」「シャッター開、閉」など声を出し合って確認する。
[2] 単独作業を行う場合、一人KYを行って、正しい作業手順に従って安全確認する。