電気による災害は、他の災害に比べ、死亡等重篤な災害になり易いのが特徴である。またアーク溶接作業は、通常人体の接地条件が良好な状況下で露出充電部である溶接棒及びそのホルダーを常に手に持って行っているので、これに接触して感電する危険性が高いものである。しかし、アーク溶接作業では実際に溶接を行っているアーク発生中におけるホルダー側充電部の電圧は低く接触した時の危険度は比較的小さいものであり、かつ、全体の作業を通じてみるとアーク発生中の時間は非常に少ない(通常40%以下)ものである。
 逆にアーク中断中の状態においては、自動電撃防止装置がない限りホルダー側の電圧は高く、危険度合も大きくなっており、かつ、その時間は長く、この間に災害が発生し易くなっている。
 本件災害も、アーク溶接作業においてアーク中断中溶接棒を取替えた際、湿潤した衣服を通じて身体が接地された条件下で、充電部に接触するというアーク溶接作業のよる典型的な感電死亡災害である。したがって同種災害の再発防止に当っては、次のような対策の徹底が望まれる。
1 アーク溶接機等設備の安全化
  (1) アーク溶接機の自動電撃防止装着同種災害防止には最も有効かつ必要するものである。法規的には高所、狭あいの場所等強制的取付け箇所は限定されているが、災害防止の観点からすべてのアーク溶接機に装着すべきものである。
 なお、現在市販されているアーク溶接機には殆どのものが自動電撃装置が内蔵されているが、ややもすると作業者においてアークの発生が遅れるということでこの機能を殺してしまうおそれがある。したがって同装置の機能保持についても注意をしなければならない。
(2) 電漏、開閉器及びアーク溶接機の漏電しゃ断器装着及び接地施行アーク溶接機関連の設備の漏電による感電災害を防止するため着実に実施すべきである。
(3) 絶縁形ホルダーの使用溶接棒ホルダーへの接触による感電災害を防止するための、ホルダーは絶縁形のものを使用すること。
(4) アーク溶接機配線の適性ケーブル使用ケーブルは、通常床面を引きずって用いるので損傷し易いこと及び過電流に基づく熱損傷が生じるおそれがあるので、適性な強度及び容量のあるものを使用すること。
(5) 母材側電路の確実設定母材側配線は、通常電気的に接続された鉄骨などを利用しているが、本件災害状況(別紙 見取図参照)の如くH形綱等を数次にわたって連結した回路を構成する場合は接続系統が不確実になるため、できるだけ回路を短い構成にするか別にケーブルを使用することが望ましい。
2 保護具使用等の徹底
  (1) 革製手袋等ぼ使用アーク接続作用に当たっては感電災害を防止することの他にスパッタやスラグによって大傷をうけることがある。このため革製手袋の使用が必要であるが発汗の激しい場合は革手袋の下に乾いた運手を着用するが感電防止上有効である。又作業者の身体部保護のため革製の前かけ、足カバーの使用が望まれる。
(2) 適性な衣服の着用アーク溶接作業に当たっては、衣服が湿潤していると非常に危険であるため、着替用作業服を整え発汗によるときは着替を励行すること。
3 電気災害に対する安全教育の実施特にアーク溶接作業においては充電状態の溶接棒等が身体の近辺にあり接触のおそれがあるので、衣服湿潤した場合感電したときの人体抵抗値、通電電流の大きさ、危険度等の相関について認識をふかめさせるべきである。
4 安全作業標準の作成
 アーク溶接作業開始前に行う溶接機及び関連設備の安全点検及びその後の作業手順を示した安全作業標準の作成が必要である。
5 作業環境の改善
 アーク溶接作業は、元来暑熱、粉じん、ガス等の雰囲気にさらされるものであるので、作業場は換気を十分に行い作業環境を整えておく必要がある。