この災害は、アセチレンガスと酸素を用いて、鉄板を加熱しながら曲げ加工の作業を始めるために、アセチレンガス溶接用吹管に点火用ライターで点火したところ、漏洩したアセチレンガスが爆発したものである。
 溶接、溶断、加熱用のアセチレンなどの可燃性ガスは、導管が古くなって腐食した部分、外力による破損部分や内圧による破裂部分、不完全な継手部分、吹管のコックやバルブの不良個所などから漏れることが多く、そのガスが定盤のマス型の中、暗渠内、タンク内、ピット、地下室など通風、換気の不十分な場所に滞留し、空気との混合気体となって引火爆発し、大災害を引き起こすことがある。
 また、吹管のバルブの閉め忘れや締め残し、吹管運搬中などにバルブやコックのハンドルが他の物に触れて緩んだり、開いたまま気付かずに放置されるなどにより可燃性ガスがピットなどの通風、換気の不十分な場所に滞留し、引火爆発する例が意外と多くみられ、ことに昼食時などの休憩直後の作業再開時に爆発の発生する場合が多く、本災害もその例に当てはまるものであった。
 アセチレンガスの爆発範囲は、2.5%〜100%とその範囲が広く、爆発危険性が極めて大きい。
 この災害の要因として、溶接用アセチレンガス吹管のアセチレンガス調節コックを締め残したこと、換気不十分な屋内作業場であったこと、加工物である鉄板に噛ませた矢によってガスの滞留空間を形成したことなどの直接的要因と、必要な資格を有していない者に作業させたこと、安全面で作業管理する管理体制が不十分であったことなどの管理面の不備が考えられることから、可燃性ガスの漏洩による同種災害の防止のためには、次のような対策を講じることが必要である。
1 安全管理体制の整備と確立
  (1) 可燃性ガスによる溶接、溶断、加熱の作業には、ガス溶接作業主任者免許取得者またはガス溶接技能講習修了証取得者を就かせること。
(2) 危険物であるアセチレンガスを取り扱う作業には、その作業の作業指揮者を指名し、その者に直接作業を指揮させて、通風、換気などの作業場所の安全確認、使用機器の作業開始前の安全点検、作業状況の監視、作業終了時の安全確認、ガス漏れなど異常時の必要な措置を行わせること。
(3) 現場を統括管理する者は、毎日1回以上、作業場所の巡視を行い、作業ごとの管理者が行う安全管理業務の遂行状況の指導を行うようにすること。
(4) 危険物を取り扱う作業場所の変更は、作業者個々の判断にゆだねることなく、現場作業を統括する管理者などに指示を仰がなければならない仕組みをルール化すること。
2 安全マニュアル等の整備と徹底
 アセチレンガスなどの危険物を取り扱う作業については、危険物の性状、作業の危険性、作業開始前の段取りから作業途中の作業の一時中断、作業終了時の措置などに関する作業手順、留意事項などに関するマニュアルを作成し、関係者に対してその周知のための教育を行い、マニュアルに沿った作業の履行の徹底を図ること。
3 安全作業の励行
  (1) その日の作業開始前に、作業内容、作業方法、作業手順、作業指示などに関するツールボックスミーティングなどを実施し、安全作業の励行を確実にすること。
(2) 溶接用アセチレンガス吹管を用いて行う作業を中断する際には、吹管のガス調節用コックまたはバルブ、ガス供給コックまたはバルブを確実に閉止するとともに、ガスボンベなどのガス供給元のバルブを閉止すること。
(3) 作業を中断する際には、吹管を不用意に放置することなく、上記の措置を講じた後、通風の良い場所の所定位置を定め、その場所に置くようにすること。
4 安全点検の実施
  (1) 溶接用アセチレンガス吹管など作業に使用する機器類は、作業開始前の点検項目を定め、点検者を指名してその者に点検を行わせること。
(2) 作業に使用する機械、設備などの定期的な点検基準を定め、点検項目、点検方法、点検者の指名。
5 安全教育の実施
 マニュアルやルールの整備を図るとともに、これらが日常的に確実に励行されるように安全教育を実施することが必要であるが、マニュアルやルールがさらに実効あるものにするための定期的な見直しを行い、見直しの都度、繰り返し安全作業の確実な励行が徹底されるように安全教育を実施すること。