近年、工場で使用するエレベーターによる災害は減少しているが、いったん起こると重大な結果を招くおそれがある。また、過去の災害の大半は、エレベーター構造規格に適合していない機械設備を使用した時に発生している。そのうち、エレベーターの積載荷重は1トン前後のもの、取り扱っていた荷の種類は家具・木製品、食料品、プラスチック製品、ダンボール等比較的軽量なものが多く、この災害も、その一例と言える。
 本件災害は、搬器の落下によるものであるが、その直接原因は巻上げ用ワイヤロープが乱巻きにより切断したと見られている。さらに、間接原因としては、事業者が、労働安全衛生法に定められているエレベーターの製造段階から設置使用時における安全確保対策を知らず、製造者が専門業者でなかったため適切なアドバイスも得られないで、これを怠っていたことが指摘されている。
 同種災害の防止を図るためには、次のような対策の徹底が望まれる。
1 エレベーター構造規格に適合するものを設置すること。
  (1) 設計及び製造段階における一般的留意事項
 荷を載せる搬器、その昇降路、ガイドレール、原動機・制御装置等の機械装置、巻上げ用ワイヤロープ及び安全装置のいずれも構造規格に適合するように設計され、組み立てられていることが必要である。
(2) 搬器の落下防止に関する留意事項
  [1] 積載荷重は、エレベーター構造規格第22条の規定に基づき、搬器の床面積に応じて取り決め、その1.2倍に相当する荷重の荷を載せて行う荷重試験に耐えられる巻上げ能力を有する原動機を選定する。(当事業場の荷物用エレベーターの積載荷重は(1.8×2.4)×250=1.08トン以上の値でなければならない。したがって、原動機の巻上げ能力(1.02トン)が不足しており、荷重試験に耐えられない設備である。)
[2] 安全装置である搬器の「非常止め」を構造規格上設けなければならない。
[3] 巻上げ用ワイヤロープの素線切れの原因となる乱巻きを起こさないように、搬器の重心とホイストの中心にずれがない組立にするほか、ガイドレールに「ねじれ」が生じないように工作する。
2 積載荷重を超える荷重をかけて使用しないこと。
 荷の大きさ、重量等を考慮のうえ「積載荷重」を取決めて標示し、過負荷の防止を徹底する。(搬器の床面積(m2)×250kg以上の値として決められる「積載荷重」が1トン未満0.25トン以上であると製造許可、設置届、落成検査、性能検査は必要とならず、設置時の法定手続きは設置報告書の提出のみとなる。)
3 エレベーターの運転方法等に関する規程及び安全点検チェックリストを作成整備すること。
  (1) 安全運転に関する規程
 エレベーターの運転方法、故障した場合の処置及び作業開始前の安全点検等に関する規程を作成する。
(2) 安全点検チェックリスト
 上記1の(1)に掲げたエレベーターの各構造の異常の有無及び使用・管理に関するクレーン等安全規則の順守状況を点検するためのチェックリストを作成する。
4 点検整備活動の充実強化
 以下の事項に留意して、上記(3)の規程・マニュアルを活用したエレベーターの点検整備を行う。
  (1) 安全装置の作動状況の調整、定期自主検査、作業開始前の安全点検等の基本対策を着実に実施すること。
(2) 次の事項に関する定期自主検査を行う。
  [1] ファイナルリミットスイッチその他の安全装置、制御装置の異常の有無
[2] ワイヤロープの損傷の有無
[3] ガイドレールの状態
(3) 点検、検査で異常があった場合には、適切な処置を行い、その記録を作成保存する。
5 労働者教育
 関係労働者に対し、上記2〜4の事項に関する教育訓練を行う。