この災害は、地下鉄工事現場に建設資材である鉄筋を搬入し、荷卸し作業中に発生したものである。
 トラック運転手である被災者は、資材搬入口(スキップヤード)に小型クレーンを搭載したトラック(8.2トン)を横付けしての鉄筋の荷卸し作業において、トラック荷台上で玉掛け補助作業に従事していたところ、足を滑らせて資材搬入口である開口部(3.0m×2.4m)から深さ10.0mの地下に墜落したものである。
 被災者の所属する会社は、労働者10名を雇用し、トラック12台で主として2つの親会社の貨物運送を行っているが、貨物自動車運送事業の許可を得ておらず、いわゆる白ナンバーで営業活動をしていた。
 会社の主な業務内容は、2つの親会社の鉄筋加工工場から建設現場へ鉄筋を運ぶことであり、両社の専属下請事業場である。
 会社には、所定の勤務時間(始業時刻・終業時刻等)の定めがなく、親会社から仕事の受注があった時に個々の労働者(トラック運転手)に作業の指示をしている。
 被災者は、前日に鉄筋加工を行っている親会社に行ってクレーン積載型トラックに鉄筋を積み込んでおき、被災当日の午前8時30分頃に災害発生現場である地下鉄工事現場に到着した。
 なお、工事現場における鉄筋工事は、3次の下請け形態で行われていたが、被害者の所属会社は、鉄筋運搬を、親会社との「輸送契約」により請負っているため、工事現場における請負関係業者の中には入っていなかった。
 災害発生場所である工事現場の資材搬入作業場所(スキップヤード)は、市街地の中心部にあり、極めて狭隘な場所にあった。
 現場に到着した被災者は、トラックを後進させて、資材搬入口に設けられた養生枠(鉄製高さ97cm)にトラックの最後部を密着させて停車した。
 荷卸し作業は、鉄筋工事の2次下請負い業者の職長が作業指揮を行い、3次下請け業者の作業者と被災者が共同で作業を行なった。
 スキップヤードには、資材搬出入用の橋型クレーンが設置されており、3次下請け業者の作業者が、クレーンを操作して鉄筋の搬入作業を実施した。
 鉄筋の種類は、長さが4mから7mまでの各種のものがあり、搬入のために同じ長さ毎に80〜100本ほどをレバーブロックで1束にし、一旦、水平に吊り上げトラック荷台最後部まで移動させた。
 スキップヤード開口部の広さは、3.0m×2.4mであったため、4m以上の長さの鉄筋は水平吊りでは地下に入れることは出来なかった。
 そこで、束にして吊り上げた鉄筋をトラック荷台の最後部で一旦卸して、締付け具であるレバーブロックを締め直して斜め吊りとして、開口部から地下に入れる作業を繰り返していた。
 この作業を午前中に8回繰り返し、午後も引き続き同様の作業を行っていたが、午後2時頃、被災者がトラック荷台の最後部と接している開口部の養生枠にかけていた右足を滑らせ、開口部から10.0mの地下に墜落した。
 共に作業をしていた作業員の通報で、直ちに病院に収容し治療したが、午後3時30分頃、頸椎骨折を伴う頸髄損傷により死亡した。
 被災者が転落した資材搬入口(スキップヤード)の開口部には、鉄製の高さ97cmの養生枠が設置されていたので、地上面で行う作業に対しては開口部からの墜落防止措置の機能を果たしていたが、トラック荷台の地上高は1.35mであり、トラック荷台上で玉掛け作業、番線切断、レバーブロックの締め直し作業等を行う場合には全く墜落防止の効果がなかった。
 また、被災者は、安全帯を携帯していなかった。
 なお、災害発生時は雨が降っていたので、被災者はゴム長靴を履き、上半身のみ雨合羽を着用し、保護帽を被っていた。