この災害は、「ニラ」栽培用のビニールハウスを耕す作業中に発生したものである。
 J町の農業協同組合は、同町で「ニラ」を栽培している農家からビニールハウスの深耕作業を請け負い、災害発生当日の20日前に作業を行なった。
 深耕作業とは、通常のロータリー歯より約2倍ほど長い27センチメートルのロータリー歯を取り付けたトラクターで畑を耕すもので、この農業協同組合では、多くの農家よりこの種の作業を請け負っていた。
 深耕作業は、町所有のトラクターを組合の野菜生産指導員でもある職員が運転して行ない、それが終了したところで、畑の所有者が臭化メチル燻蒸剤を使用してビニールハウス内の消毒を行なった。
 臭化メチルによる消毒の内容は、畑を耕してから、2.5m2に一本の割合で燻蒸剤の缶(500g)を平均的に置き、その上をビニールで覆った後、専用の開缶具を使って缶を足で踏みつけて開け、中の臭化メチルを出すという方法がとられていた。
 今回の臭化メチルの使用量は、260m2のビニールハウス1棟当たり10本が使用され、ビニールハウスが3連棟となっていたため、合計30本(15Kg)が使用されていた。
 災害発生当日の前日、畑の所有者が消毒の状況を確認するため、覆っていたビニールを剥がし土を手に採って匂いをかいでみたが、特段の異常はなかった。
 しかし、畑の耕し方が不均一であったことから、再度深耕作業を行なうことを組合に要請し、災害発生当日、前と同じ運転者(被災者)が赴き、作業を開始した。
 当日の午前中に2棟分の深耕作業が終了したが、午前11時頃、畑の所有者の妻がお茶を出しに行ったとき、被災者は「気分が悪い」と言っており、顔には土が付いていた。
 昼になり、被災者は、昼食のため、一旦自分の所属する農業協同組合に帰った。
 午後の深耕作業は、午後2時30分より約1時間ほどで終わり、被災者はトラクターを依頼者である畑の所有者のところにおいたまま、農業協同組合に帰った。
 この時、被災者は、農業協同組合の女子事務員に「吐き気がする、前が暗く見える、頭が痛い」と話しているが、特段上司に訴えることもなく、自宅に帰った。
 その翌日、被災者は、自ら病院に行き、医師の診断を受けたところ、「臭化メチル中毒症」と診断され、そのまま入院、加療した。
 なお、災害発生当日のビニールハウスの土壌の状況は、最初の深耕作業の時から一度も散水していないので乾燥状態にあり、トラクターで耕す作業中土が舞い上がるような状況にあった。
 また、当日、畑の所有者もビニールハウスの中に入っているが、特に臭化メチルの匂いはしなかった。
 この燻蒸に使用した臭化メチルは、次のようなものであった。
[1] 成分 臭化メチル 99% 警戒剤その他 1%
[2] 性状 淡黄色透明の揮発性液体
[3] 容量 1缶 500g
[4] 有害性 缶には、使用条件(燻蒸期間、温度、水分、ガス抜き等)、作業人員、保護具の使用、作業後の洗浄等について記載があった。
 通常、「ニラ」栽培前の土壌の消毒は、深耕作業の後、適湿の時に臭化メチルで行なうことになっており、作業の方法としては、500g缶を畑1アールあたり2kgになるように均等に土壌の上に置き、ビニールで地表との間に10Cm程度の空間ができるように覆い、ガスが漏れないようにビニールの袖を土で良く押さえてガスを出し消毒することになっている。
 消毒の期間は、高温時期は5〜7日、低温時期は7〜10日とし、その後ビニール覆いを取り除いて、ガス抜きのため2〜3日間隔で2〜3回の耕起をし、その後に苗の植えつけが行なわれることになっている。