この災害は、ビル地下1階の電気室において、全館停電で変電設備の点検、各種の電気的測定、清掃等を実施中に発生したものである。
 被災労働者の所属する事業場は、ビルメンテナンス会社で建物等の清掃、各種設備の運転・監視、警備等を行なっており、被災者はそのうち電気、空調、衛生関係の点検を主たる業務としている部門に所属しており、労働者数18名で約70のビルの業務を担当している。
 当日の作業計画では、午前8時から午後9時までの間にビルを全館停電状態で変電設備の点検、各種測定、清掃を技術員5名で行なうことになっていた。また、当日は、午前7時30分から午後5時までの間に別の会社が高圧引き込みケーブルの更新工事を行なうことになっていた。
 災害発生までの作業の進行状況は、次のとおりであった。
〔6時03分〕
 責任者でもある被害者が、点検するビルの鍵を持って事務所を出発
〔6時30分〕
 責任者がビルに到着、停電作業に入り、作業は次の手順で進められた
(1) 配電盤ブレーカーを落とす
(2) 主しゃ断器(VCB)を切る
(3) 負荷開閉器(LBS)を切る
(4) ジスコン断路器(DS)を1相づつ3箇所切る
(5) 1階にある電力会社のボックスを開路する
(6) 先端に電線を巻き付け、もう一方をトランスのアースに接続したジスコン棒を使用して電路の放電作業を行なう
(7) 検電器で停電を確認する
(8) 接地線をジスコンの一次側に挟む
〔8時00分〕
 責任者立ち会いのもと、別の会社の高圧ケーブル交換作業が開始された
〔8時45分〕
 4名の技術員がビルの電気室に到着
〔9時00分〕
 責任者を中心に当日の作業打ち合わせを実施、責任者は4名の技術員に各階の設備の点検、各種測定を指示
〔9時30分〕
 技術員4名は、2班に分かれて各階の分電盤の絶縁測定、照明測定等を実施、責任者は引き続き別の会社の高圧ケーブル交換作業立ち会い
〔11時20分〕
 技術員のうち2名がトランスの油抜き取り作業を開始
〔11時50分〜13時00分〕
 昼休み
〔13時00分〕
 トランスの絶縁油試験開始
〔14時10分〕
 別の会社がケーブルの耐圧試験開始
〔14時50分〕
 復電作業が行なわれる
 別の会社が相回転確認試験開始
〔14時55分〕
 保護継電器(OCR・DCR)試験準備
〔15時10分〕
 保護継電器試験開始
〔15時23分〕
 感電事故発生
〔16時33分〕
 病院で死亡
 災害の原因となった保護継電器試験は、測定器がセットされた後、最初に渦電流継電器(OSR)の試験が行なわれ、続いて地絡方向継電器(DCR)試験の準備に入った。
 この試験の準備のため、技術員等が地絡方向継電器の測定器のセットを行なっているとき、責任者(被害者)が高圧受電盤の扉を開け、左手素手で筺体枠をつかみ、右手で試験のため取り外す必要があったPTヒューズを素手でつかんだ。
 しかし、PTヒューズは通電中であったため、ジリジリという音と同時に被害者が「おー危ない」と言いながら飛ぶように倒れ込んだ。
 この後、ヒューズは被害者の右手付近に落ちており、また、被害者は痙攣していた。
 通報により5分後には救急車が来て人工呼吸や心臓マッサージを行なった後、病院に運んだが、約1時間後に死亡した。
 事故後の現場及び被害者の状況を見ると、高圧受電盤筺体枠には電流のスパーク跡があり、また、被害者には、両手掌面乃至指に感電様乾燥淡褐色調皮膚病変、表皮に僅かな発熱水泡と思われる空洞が幾つかあった。