この災害は、各種の特殊鋼材の卸小売りを行う鋼材店が有する倉庫内で、丸鋼材のはいから出荷に必要な鋼材の抜き取り作業の段取りを行っていたときに発生したものである。
 この倉庫には、各種の特殊鋼材がストックされており、鋼材の請け出しを行うために、運転室付きのクラブトロリー式天井クレーン(つり上げ荷重5.05t)が設置されている。
 また、倉庫の一角には、鋼材の切断加工が行える設備一式が備えられている。
 災害の発生したその日は、通常どおりに、午前8時から従業員全員による朝礼が事務所内で行われ、その後、倉庫担当責任者と作業員8名が倉庫内の詰め所に移動し、定例の始業時ミーティングが行われた。
 始業時ミーティングでは、倉庫担当責任者から、当日の出荷予定、作業の段取り方法、作業上の注意事項などの説明が行われ、倉庫担当責任者への作業員側からの要望や意見などが出され、その日の作業についての確認のための若干の意見交換が行われた。
 始業時ミーティング後、倉庫担当責任者から指示された作業の準備に入るため、各作業員はそれぞれ指示された作業を始めるために、倉庫内のそれぞれの場所に向かった。
 被災者は、クレーンの運転を担当する作業員Aと組んで、直径が250mmで長さが6mの丸鋼材2本を出荷するための作業を始めるため、倉庫内の丸鋼材が目落とし積みにはい積みされた場所に向かった。
 この丸鋼材のはいは、高さ2.3m、幅6.7mのもので、長さと径と材質の異なる各種の特殊鋼の丸鋼材(直径210mm〜400mm、長さ5.5m〜6.5m、重量2t〜5t)が105本積み上げられていた。このように、倉庫内に在庫する鋼材は種類が多く、異なる径の丸鋼材が同じはいに積み上げられているため、出荷する鋼材をはいから取り出すには、その上にある鋼材を取り除き、はいの両側に振り分けながら必要な鋼材を取り出す作業手順となっていた。この作業手順により鋼材の取り出しが繰り返されるため、径の大きい鋼材が径の小さい鋼材の上になり、不安定な状態となるため、その都度、転がり落ちないように木材の歯止めを噛ませ、はいが安定するように手当していた。
 災害が発生した当時のはいの姿は、図に示すように中央部が高く、両端が2段から3段になっている。そのため、このはいが崩れるのを防止するために、はいの両端に大径の丸鋼材を置いて押さえ付け、はいのところどころに木材の歯止めを噛ませていた。
 クレー運転士免許を取得している作業員Aと、玉掛技能講習修了証を有する被災者の二人は、このはいの中から出荷に必要な鋼材2本を抜き出すための作業を、天井クレーンを用いて行うことになった。
 それぞれの作業の分担は、作業員Aが天井クレーンの運転を行い、被災者が丸鋼材への玉掛けおよび作業員Aへの合図を行うものであった。
 打ち合わせどおりに、天井クレーンの運転を担当することとなった作業員Aは、天井クレーンの運転室に入り、天井クレーン運転のために必要な始業時点検を行い、運転の準備を整え、運転室内で被災者からの合図を待っていた。
 玉掛けと合図を担当することとなった被災者は、目落とし積みされた丸鋼材105本の中から出荷する2本の丸鋼材が、はいの南東側の床面から2段目にあることを確認し、丸鋼材を抜き取る段取りのために、目落とし積みされた丸鋼材上を歩いていた。
 作業員Aは、天井クレーンの運転をスタンバイした状態で、クレーンの運転室で被災者からの合図を待っていたところ、丸鋼材のはいに北側から上がり、天井クレーンの後方を通り、南東側に移動する被災者の姿を見たが、まもなく天井クレーン運転室からの死角に入り、被災者の姿が見えなくなってしまった。
 被災者の姿が見えなくなった直後、天井クレーンの運転室にいた作業員Aは、被災者の「あっ」と言う声を聞き、同時に「ガラ、ガラ、ガラ、ガン」という丸鋼材の転がり落ちる大きな金属音を聞いた。
 作業員Aは、この異常な音を聞いて、天井クレーンの運転室の窓から身を乗り出して、丸鋼材のはいの方向を見渡したところ、はいの上で丸鋼材に頭部を挟まれて倒れている被災者を見た。
 直ちに、作業員Aは大声で同僚を呼び、天井クレーンで被災者の頭部を挟んでいた丸鋼材(直径260mm、長さ6m、重量2.7t)を取り除くとともに、救急の手配をしたが、救急車が到着したときには、すでに脳挫傷により即死の状態であった。