この災害は、積層フリッチ(寄せ木で製作されたブロック)を切削して単板を製造する作業中に、スライサーの送り装置と切削した単板を積み重ねていくテーブルリフター(以下「リフター」という。)のテーブルとの間に身体をはさまれたものである。
この工場には、スライサーが8台と夫々にリフターとクレーン、共通機械として製品の梱包機が1台設置されており、一週間交代で昼夜勤務が行なわれている。
通常の作業の流れは、次の通りである。
(1) 積層フリッチと呼ばれる寄せ木のブロック(標準品で180cm×30cm×15cm)が積層係から切削係へ運ばれてくる。
切削係は、このフリッチを温水槽に浸け軟化させた後、スライサーで単板に切削する。
切削係の班長は、運ばれてきたフリッチを温水槽につけて軟化処理をした後、「カンバン」と呼ばれる着工指示書で各スライサーの担当者に作業指示をするとともに、各スライサーで切削した単板を回収し、梱包機で梱包して出荷する役割を担当する。
各スライサーの担当者は、フリッチをスライサーにセットし、「カンバン」から製作すべき単板の厚さと製作枚数を読み取ってから切削作業に着手する。
スライサーの手前には、ピットに据え付けられたリフターがあり、切削した単板はこのリフターのテーブル上に揃えて重ねていき、単板がテーブルの上に高く積みあがって来たらテーブルを下降させ、更にその上に単板を積み重ねて行く。
「カンバン」で指示された枚数が完成すると、テーブル上に積み重ねられた単板は、クレーンでつり上げて所定の場所に置き、班長がこれを回収し、梱包機で梱包して出荷する。
(2) スライサーは、刃の付いた下側の台(かんな台)及びフリッチを固定している上側の台が前後に動いてフリッチを切削する構造であり、スライサーにより切削された単板は自動的に作業者の手元まで送られてくる。
作業者は、送られてきた単板(標準品で180cm×30cm×0.25cm)の右端を手で掴み、左端をスライサーの送り装置が掴んでリフターのテーブル上に整えて積み重ねていく。
なお、スライサーの操作盤は、ピット内にあり、起動スイッチ、非常停止ボタン、作動スイッチ、切削速度調節ダイヤル等が取付けらている。
(3) リフターは油圧式であり、ピットの床に置かれている。
リフターの起動スイッチは、上昇及び下降が別々に一枚の板に固定したもので、スイッチ板は片手でも簡単に持ち上げることができ、また、コード長の範囲で移動することができる。
上昇または下降スイッチを押している間は、リフターが約5cm/秒の速度で動き、離すと停止するようになっている。
なお、スイッチ板には、不意の接触を防止するカバー、非常停止スイッチ等は取付けられていなかった。
また、スライサー2号機のみスイッチ板がテーブルの上におかれ手で操作されていたが、他のリフターについては床面において足で操作されていた。
災害発生当日、被災者の所属していたA班は夜勤勤務で、午後9時50分から体操を始め、午後10時00分の始業サイレンを合図に各作業者が担当のスライサーで作業を開始した。
午前2時より40分間の休憩を取って、夫々のスライサーで作業が再開されたが、午前2時50分頃、班長が何気なくスライサー2号機の方を見るとスライサー2号機の送り装置に単板が溜まっていた。
班長は、不審に思ってスライサー2号機のところに行くと、被災者がうつ伏せの姿でテーブルとスライサーの送り装置の間に身体をはさまれているのを発見した。
なお、リフターのスイッチは、リフターのテーブルの上に置かれており、送り装置とテーブルにはさまれている被災者の胸の下で上昇スイッチが押されっ放しの状態になっていた。