この工事は、町発注の公共下水道、市場汚水幹線築造工事であり、工期約5.5ヶ月で完成させるものであった。
 この工事を請負った元請は、1次下請の専門工事業者に発注した。工事は、立坑6基を堀削し、立坑間を推進工法により塩化ビニール管(直径200m〜250m)を埋設する全長約22.4mの下水道工事であつた。
 この工法は、2つの立坑を築造し、一方の立坑に推進機械を据付け、もう一方の立坑に向かつて塩化ビニール管を推進して行くものであり、その作業手順は次のとおりであつた。
[1] 発進立坑からリード管(直径6cm)を推進させ、到達立坑まで貫通させる。
[2] リード管が到達後、最後部に土砂堀削用カッターと塩化ビニール管を取り付ける。
[3] 塩化ビニール管の内側には堀削した土砂を発進立坑に排出するためのスクリューを取り付ける。
[4] 塩化ビニール管の1本の長さが80cmであり、80cm推進する毎に塩化ビニール管とスクリューを接続して行く。
 また、この工事を実施する体制として、2交替勤務体制をとっていた。
 昼勤班;8:00〜17:00、休憩12:00〜13:00、午前、午後15分の休憩。
 夜勤班;20:00〜5:00、休憩0:00〜1:00、2回の15分間の休憩。
 災害発生当日の作業は、夜勤班であり次のようになっていた。
[1] 発進立坑No.1内の排土処理
 管の推進により堀削した土砂をバキュームを使用して立坑外に排出する作業
[2] 発進立坑No.1と到達立坑No.2の間の管の推進
 災害の発生状況を時間の経過により説明すると次のとおりであった。
○ 20時40分;現場駐車場に1次下請の推進工(A)、推進工(B)土工(D)の3名と警備会社の警備員(C)他2名が集合した。
○ 21時〜21時20分;1次下請工事主任が現場に到着し、また、現場責任者もバキュームに乗つて現場に到着した。その後直ちに発進立坑No.1の排土作業に着手し、推進工(B)と土工(D)がNo.1に、推進工(A)がNo.2に入ることに決定した。
○ 22時10分;BとDはNo.1に入り、AはNo.2に向かつた。
○ 22時20分;前日に塩化ビニール管の推進を20cmだけ残していたので、これをNo.1で開始することにした。Bは推進開始の連絡をするため、No.1とNo.2を結んでいるインターホンを使ってAに呼びかけたが応答がなかった。
 Bは20cmだけ管の推進を行った後、No.1を出てNo.2に向かい、No2をのぞいて、底に仰向けに倒れているAを発見した。BはAを救出するため、No.2に入り、そのとき現場責任者は警備員(C)に事務所に連絡するように指示をした。BはNo.2の底に到達し、上にいた現場責任者に、Aに外傷がないことを告げると同時に急に意識を失った。
○ 10時25分;事務所にいた工事主任が警備員(C)の報告を受け、救急車の手配をした。Cは一人で現場に戻り、2名がNo.2の底に倒れているのをみて、状況確認をしようとして中に入り、底に到着し、Aの脈を見ようとして急に意識を失った。
○ 10時35分;工事主任は酸素欠乏症によるものと判断し送風機により送風を行った。
○ 10時47分〜10時55分;救急車がレスキュー隊の出動を要請し、救助を開始した。
○ 11時20分;全員の救出を完了した後、レスキュー隊が立坑の底での酸素濃度を測定したところ、17%であつた。
(参考)
[1] 立坑No.2の状況
 立坑No.2の断面の状況は、見取図No.1のとおりであり、ライナプレートと呼ばれる金属性の壁で覆われているが、その継ぎ目から地下水、薬液注入した薬液が漏れ出していた。立坑の底は、コンクリートが打設してあり、地下水を汲み上げる排水ポンプが設置されていたが、底には、4cmほど地下水が溜っていた。
[2] 酸素欠乏空気の発生原因
 災害発生の翌日の酸素濃度測定では、約6%(地上での通常値約21%)を記録し、地層は、立坑の5m西側でボーリング調査を行った結果では、酸素吸入能力が最も大きいのは深度4m〜5.7mの粘性土層(不透水槽)であり、貯留していた空気が、第一鉄塩類や第一鉄イオンと反応して酸欠状態が生成された。また、周辺の気圧の低下により、立坑に酸欠空気が流出したものと推定される。