この災害は、高速道路新設関連のトンネル工事で発生したものである。
 このトンネル工事は、約2年半の予定で、トンネル部分約500メートル、明り部分約400メートルの工事を行なうもので、発注者から5社の共同企業体で受注したが、この災害はその一次下請け事業場で発生した。
 トンネル工事は、全断面の面積が約140m2のトンネルを中壁分割シュートベンチカット工法(一般にNATM工法と呼ばれる。)で掘削するもので、上部半断面の掘削切羽を後部半断面よりおよそ15〜20メートル先行して進める工法が採られていた。
 工事現場の地質は、主として砂れき、砂、粘土層により構成されており、また、湧水を含む地質であるため、工事着手時点でボーリングによる水抜きが行われたが、全ての湧水を抜き出すことが不可能であったため、工事中に少量ではあるが、水滴が滴り落ちる状況にあった。
 トンネルの掘削工事に使用される機械としては、油圧ブレーカー、ドラクショベル、トラクターショベル等の掘削機械、油圧クローラジャンボ、油圧ホイールジャンボ等の削孔機械、支保工建込み機械としてのエレクタージャンボ等であった。
 工事は、昼勤が午前7時〜午後5時30分、夜勤が午後7時〜翌朝午前5時30分の2交代制となっており、一週間ごとに勤務が変わるようになっていた。
 それぞれの番方の作業者数は、半断面工事に4名で、後部半断面も行うときは、その倍の8名となっているが、災害発生時の作業は上部半断面のみであったので、4名で作業が行なわれた。
 トンネル掘削工事の作業工程としては、次のようになっていた。
[1] 切羽及びその付近の掘削。
[2] コンクリートの一次吹き付け。(通常は5センチメートルであるが、地質の状況により5〜10センチメートル)
[3] 掘削「ずり」の搬出。
[4] 支保工の建込み。
[5] 金網及び樹脂の取り付け。
[6] コンクリートの2次吹き付け。
[7] フォアパイリングの打設。
[8] コンクリートの3次吹き付け。
[9] ロックボルトの打設。
 当日の作業開始から、災害発生時までの経過は、次のようになっていた。
〔午前7:00〕
[1] 当日の作業(抗口より320メートルの地点、上部半断面の掘削、支保工の建込み)
[2] KY活動
〔午前7:25〕
 ブレーカーにより切羽等の掘削開始
〔午前10:00〕
[1] 切羽等の掘削終了
[2] コンクリートの一次吹き付け(被害者担当)
 (午前中に吹き付け終了)
〔午後1:00〕
[1] エレクタージャンボによる支保工の建込み作業開始
[2] 建込み作業が終了したので、エレクタージャンボにより支保工の間を補強するためのタイロッドを上の部分に6本取り付けた。
〔午後2:05〕
[1] 被害者は、エレクタージャンボではできない地面に近い部分に2本のタイロッドを取り付けるため、地山の下方に移動
[2] 間もなく「どさっ」と音がして、被害者が肌落ちした地山の塊の下敷きになり、約1時間後に多臓器不全(脾臓、左腎臓等の破裂)のため死亡。
 災害発生後の現場の状況から推定すると、被害者は、支保工と支保工との間を補強する8本のタイロッドのうち、6本の取り付けを終り、残りを地面に近いところに取り付けるため、取り付け個所を覆っていた残土を取り除く作業を切羽に背を向けて行なっていたものと考えられる。
 また、肌落ちした地山は、被害者の頭上3メートル〜7メートルの間で、幅は支保工間隔分、崩壊土量は、推定0.5〜0.7m3である。