この災害は、シールドトンネル工事においてセグメント自動組立装置を用いたシールド掘進ならびにセグメント組立作業中に発生した災害である。
被災者が、自動組立装置のボルト締結機と組立装置本体のサポートフレームの間に、頭部を挟まれ死亡したものである。
上記工事は、東京湾横断道路建設にあたり、浮島取付部から川崎人工島間のトンネルをシールド掘削(泥水加圧式)するもので、発注:T株式会社、元請:K組・H組・N開発の共同企業体、一次下請:S建設(シールドマシンの運転と2次覆工)とH造船(シールドマシンの運転指導と整備点検)で施工されている。被災者のTはH造船の所属である。
本現場での作業は、2グループに別れて昼夜2交代(8:00〜17:00、20:00〜5:00)で進められている。通常の作業では、シールド掘進(50〜60分/回)、セグメント自動組立装置を用いたセグメントの組立(11ピースで1リング、90〜110分/リング)の繰り返しで、作業量は1番方で約3リング程度である。
セグメントの自動組立は、
I:セグメントの供給
II:セグメントの把持
III:粗位置決め(自動組立装置の旋回など)、
IV:精位置決め
V:ボルト締結(ピース間の締結:一次締結)
VI:ボルト締結(リング間の締結:二次締結)
VII:原点復帰
の7行程で行われる。
セグメントのボルト締結は、セグメント自動組立装置のボルト締結機で自動で行われる。ボルト締結機は、一対になったチャッカーとナットランナーなどから構成され、チャッカーはボルト・ナット・座金の掴持と送り出し、ナットランナーはナットと座金の保持・回転などが可能なアーム状の作動部分である。チャッカーとナットランナーは各々8機づつ設置されており、切羽に向かって右側から順に1番、2番‥‥8番と呼ばれている。1・2・7・8番でピース間の締結(一次締結)、3〜6番でリング間の締結(二次締結)が行われる。
締結の動作は、
[1] ナットランナーとチャッカーをセグメントのボルトボックスに挿入
[2] チャッカーでボルトボックスに予め挿入された継ぎ手ボルトを掴持し、ナットランナー側へ送り出し
[3] ナットと座金を保持したナットランナー先端を回転しナットランナー側を締結
[4] チャッカーを原点復帰させチャッカー側にナットと座金を供給
[5] チャッカーでナットと座金を把持し、チャッカーをセグメントのボルトボックスに挿入し、継ぎ手ボルトに押し当て
[6] ナットランナー先端を回転させ、チャッカー側を締結
[7] 全てのボルト締結を終了した後、ナットランナーとチャッカーを原点復帰
等の7行程の順序で行う。
これらのセグメント自動組立装置の運転は、自動組立装置本体から約23m離れた後方の運転室の操作盤のボタン操作で行われる。自動運転が選択された場合は、セグメント供給から始まりボルト締結・原点復帰までの前記I〜VIIの行程を11ピース(1リング)が完成するまで自動で行うことができる。
災害発生当日の昼番では、シールド掘進とセグメント組立作業にはS建設のM・Y・G等7名が、また、自動組立装置のメンテナンス作業にはH造船のT(被災者)等2名、計9名が従事した。セグメント組立時の自動組立装置の運転操作はYとGが行い、他の7名は自動組立装置の回りで作動状況を監視していた。シールド掘進を終了、セグメント組立作業を開始し、AM10:33から9ピース目の組立作業を開始して1次締結を終え、2次締結に入った。
この時、前記の「[4]チャッカーを原点復帰させチャッカー側にナットと座金を供給する」行程で、運転室のタッチパネル表示に「4番チャッカーのナット保持完了信号」が表示されなかった。そのため、全てのナットランナーとチャッカーが待機状態で停止した。ナットランナーとチャッカーは異常が発生した場合、先の行程には進まず、そこの行程で待機する仕組みになっている。その場合には、バイパスと呼んでいるが、異常の発生したナットランナーとチャッカーを停止させ、他の正常に作動しているものを動作させる。バイパスした場合は、他のナットランナーとチャッカーが締結を終了した後、バイパスした箇所のボルトとナットの締結を手動操作と人力で行っていた。
運転室のYは、「4番チャッカー異常のためバイパス」と自動組立装置周辺にいるM等に無線連絡した。無線はS建設のMの他、被災者Tを含めて3名が所持していた。Mが「了解」と無線で返答した。そのため運転室のYは4番のバイパススィッチを押し、3番・5番・6番の自動締結に入った。Mが上段作業デッキから中段作業デッキへ階段を下りた所、T(被災者)が中断作業デッキの手すりから仰向けに上半身を乗り出させ、5番ナットランナーの作動箇所の開口部(48cmx40cm)に頭を入れているのに気づいた。Mは、作業デッキ手すりの所に設置されている非常停止スィッチを押し、機械を非常停止(AM10:38)させたが、間に合わず、T(被災者)は原点位置に戻ってきた5番ナットランナーと機械サポートフレームの間に顎と首を挟まれ被災した。
救出後、救急車で病院へ運び治療したが、下顎骨折・脳挫傷で4日後死亡した。