この災害は、蓄電池式フォークリフトに搭載された積荷の荷崩れを直すため、運転者が運転席から身を前方にのり出して作業している時に、荷役操作レバーが体の一部に接触して、マストとヘッドガードとの間に頚部及び胸部が挟まれ死亡したものである。
 被災者が勤務する会社の事業内容は、菓子等の食品包装紙を印刷して倉庫で一時保管し、発注者の指示に基づきユーザーまで配送を行うものである。
 通常、配送に関する作業指示は、係長が行い、フォークリフトを用いて行う作業は、フォークリフト運転の有資格者が、又、トラックを用いる作業は、被害者とフォークリフトの運転者の2人で行なっている。
 災害発生当日、被災者は、下請け業者の所に製品の受け取りに行き帰社時刻が遅れるため、フォークリフト運転者が係長の指示により、別の下請け業者の所に配送する製品を取りに行った。
 被害者が帰社したのは、午後4時20分頃で、2階の事務所に戻って係長から次に運ぶ製品についての指示を受け倉庫に行った。
 この時事務所に居たのは、係長と出向社員2名の計3名で、倉庫には被害者が一人で行った。
 暫くして、他の一人が、配送する商品を確認するために倉庫に行き、フォークリフト上で口から少し血を出し倒れている被害者を発見した。その時には、被害者の意識はなく、出向社員は直ぐに事務所に戻り、救急車を手配し、被害者を病院に運んだが、同日午後6時00分、頚部、胸部圧迫により死亡したものである。
 被害者が倒れていたフォークリフト等の詳細は、次の通りである。
(1) 運搬するためと考えられる印刷済のロール紙(1個の重量15キログラム、直径50センチメートル、高さ80センチメートル)が、パレット(サイズ:長さ90センチメートル、幅90センチメートル)上に4個立てた状態で置かれていた。
 そのうち、運転席に近い右側の1個が、運転席方向にバックレストに接触して傾いた状態にあり、他の3個は、立てた状態のままで保持されていた。
 なお、それぞれのロール紙は、約10センチメートル間隔で置かれていた。
(2) マストは、垂直状態から運転席側に約6度傾斜した状態になっていた。
 なお、このフォークリフトのマストは、運転席側に12度、運転席側とは反対方向に6度傾斜させることができ、走行を行なう時は、積載荷物の落下を防止する為にマストを運転席側に傾斜させた状態で使用することになっていた。
(3) 荷役操作レバー(リフト、及びチルト)は、運転席前方へはみ出した被災者の腰部と接触して、運転席側に傾斜状態になっていた。
 また、荷役操作レバーは、ステアリング・ホィールの右側にあり、リフトレバー、チルトレバーの順に配置されている。
 なお、フォークリフト操作レバーの操作によって次のような状況になる機能となっていた。
(キースイッチが「ON」状態の時は)
・ リフトレバーを運転席側に倒すと、フォークが上昇し、運転席と反対側に倒すとフォークが下降する。
・ チルトレバーを運転席側に倒すと、マストが運転側に傾き、運転席と反対方向に倒すと、運転席と反対方向に傾く。
(キースイッチが「OFF」状態の時は)
・ リフトレバーを運転席側に倒しても、荷役モータが作動しないため、フォークは移動しないが、運転席と反対の方向に倒すとフォークが下降する。
・ チルトレバーは、運転席に倒しても、運転席の反対方向に倒しても、傾斜しない。
(4) フォークリフトの検査・整備状況は、「特定自主検査」が災害発生の10ケ月前に外部の検査・整備工場で実施されており、また、月次検査も同じ検査・整備工場に委託されていた。
 災害発生後に、このフォークリフトの状況を点検したが、全く異常が認められなかった。
 なお、被害者は、普通自動車の運転免許を取得していたが、フォークリフト運転の技能講習は修了したおらず無資格であった。
 また、被災者の健康状態は、特段の異状は見られなかった。
 服装は、作業服、作業靴、ヘルメットを着用していた。