この災害は、林道開設工事において、法面保護のための「厚層基材吹き付け」作業の準備中に発生したものである。
この工事は、市の発注によるもので、A社が受注し、A社はさらにB社を下請けとして使って作業を行なっていて、工期は約1年半の予定であった。
工事が開始されて1年経過した時点では、路面のコンクリート打ち作業と法面への種子吹き付け作業の一部を除き、ほぼ工事が終了していた。
しかし、発注者の工事検査で、部分的に法面の仕上がり状態の悪いところがあるとの指摘を受け、その部分について法面保護のため厚層基材吹き付けを行なうよう計画の変更を指示された。
当初計画によれば、法面の保護は種子吹き付けのみで行なうことになっていたが、発注者の指示があったことから法面保護作業を請け負っていたB社は、急きょ、厚層基材吹き付けを得意とするC社(被害者の所属会社)に仕事を下請け発注した。
C社が請け負った厚層基材吹き付け作業の手順は、次のとおりとなっていた。
(1) 法面清掃作業:吹き付け前に、法面にある木の根や浮き石を取り除く
(2) ラス張り作業:吹き付けした厚層基材が流出しないように、吹き付ける法面の範囲に金網を張る
(3) アンカー取り付け作業:ラス金網を法面に固定するためのアンカーを取り付ける
(4) 固形肥料帯取り付け作業:吹きつけた種子の発芽を良くするため、ネットに入った固形肥料を法面ラスに1メートル間隔で取り付ける
(5) 厚層基材吹き付け作業:腐葉土、接着剤、種子、肥料を混合した厚層基材をモルタルガンで吹き付ける
C社の作業は、前日から開始され、前日には次のような作業が行なわれた。
まず、急斜面での法面清掃作業であるため、安全帯を使用する必要があり、そのために安全帯を装着する親綱(以下「親ロープ」という)を吹き付け作業を行なう範囲に約5メートル間隔で設置した。
親ロープの固定は、斜面上方の法肩から2〜3メートル離れたところにある立ち木にロープを巻き付け、さらにその木の後方にある別の木にもう一度巻き付けるのが基準であった。
しかし、当該現場の厚層基材吹き付け作業を予定している箇所には、親ロープを取り付けるのに適当な木がなかったので、少し離れたところにある木と木の間にワイヤーを横に張り、このワイヤーに滑車を取り付けて、滑車を介して親ロープを垂らすことにした。
この作業が終了して後、法面の清掃作業が開始されたが、作業者は約5メートル間隔で垂らされた親ロープに傾斜面用安全帯を装着し、C社の専務を含む6人で作業が進められた。
この作業は、午前中でほぼ終了し、午後からはラス張り作業が行なわれたが、この作業は清掃作業と同様に安全帯を装着し、法肩(上方)に2名、途中に1名、法尻(下方)に2名がつき、法尻からラス金網を引き上げ固定するものであった。この作業も清掃が終わった部分については1日で終了した。
災害発生当日は、午前7時20分頃、C社の社長、専務、作業員5名が3台の車で会社を出発し、現場には午前9時20分頃到着した。
当日は、3番目の作業であるラス金網のアンカー取り付け作業等を行なうことになっていたが、現場に到着したとき、被害者は専務から前日に清掃ができなかった箇所の清掃を行なうよう指示された。
そこで、被害者は、作業衣の上からヤッケを着て、その上の腰部分に法面清掃用の道具袋(鋸、鎌、かき板等が入っている。)を巻き付け、安全帯を手に持って作業箇所の方向に歩いて行った。
被害者が、作業箇所のほうに歩いて行ってから10分程経過した午前9時40分頃、現場に来ていた社長は、作業予定の箇所の法面の下方の法尻から約1メートル離れた道路に被害者が仰向けに倒れているのを発見した。
直ちに、救急車を呼び、病院に収容したが、午前12時45分に脳挫傷のため死亡した。
なお、災害が発生した当時、他の作業者等は、被害者とは離れたところで、しかもカーブしていた山の陰で作業をしていたため、被害者の行動を目撃してはいなかった。
また、被害者の安全帯は、法肩より2メートル位離れた位置(ワイヤーの張っている付近)に置かれてあった。