この災害は、フェノール樹脂製造プラント内で発生した。
 この工場のフェノール樹脂合成工程は、原料のフェノールと酸を反応釜に仕込み、混合、昇温しながらホルマリンを添加、さらに変性剤を加え、蒸気加熱して反応を終了させたのち、脱水して樹脂を生成する。
 操作は、プログラムコントローラーによる自動操作を基本とし、一部手動操作を交えて行う。
 災害が発生した工程における勤務は、作業指揮者と4名の作業者の班編成で、前日の午後11時から当日午前8時までの予定であった。班長(又はこれに変わる責任者)は休日のため不在のまま作業が行われていたが、反応工程の途中でトラブルが生じた。
 同班の勤務開始時刻である前日の午後11時53分より反応釜(1号機)に原料のフェノールと触媒として硫酸を仕込み、混合しながら昇温させ、ホルマリンを徐々に添加した。
 この途中で、水蒸気とガス状のホルマリンをコンデンサーを通して冷却し液体にして反応釜に戻す「還流反応」を行った。これにより、レジン(中間生成品の樹脂)が生成するが、反応の過程で副成した水と未反応フェノールを真空下で加熱することによって「脱水反応」を行い、脱水液は脱水タンクに送る。この脱水反応が80%進んだ過程で変性剤(植物油)を添加した。(添加終了時刻は災害発生当日午前7時18分)
 この工程の指図書では、次の「混合」「混合昇温」に作業を進める際に、「混合」に入る前は自動操作のままとし、「混合昇温」に入る前には手動操作に切り換えるべきところ、作業者Aが真空度の判断を誤って直ちに50cmHgを0cmHgにすべきと考え「混合」に入る前に手動操作に切り換えたため、真空度調整と同時に蒸気加熱が行われて温度が上昇し続けた。作業指揮者の指示のもとで同僚作業者Bとともに、冷却水を通しても温度が下がらず、7時40分ごろ手動操作による真空冷却を行った。
 真空冷却は、真空にすると沸点が下がって低い温度でも沸騰し、蒸発時の気化熱により熱が奪われる原理を利用した冷却方法である。
 しかし、この真空冷却の操作にも誤りがあって、発砲レジンが広範囲の配管その他の設備に付着した。
 この間、7時48分に「混合昇温」が終了し、8時12分に中間生成品のレジンを次の反応釜(2号機)に送る移送を終了している。
 2号機への移送は、この反応釜で真空加熱して未反応フェノールを除去することにより、樹脂の生産効率を上げるために行う。一方、1号機では次の品番の製品製造のための準備作業として、脱水タンクの脱水液をポンプによりフェノール回収装置へ送るための操作を行ったが負荷がかかり過ぎて運転ができなかった。通常、2号機への移送は手動操作により「脱水配管」に切り換えて行うことになっていたため、上記の1号機系の真空冷却は「還流配管」で行うべきところ、作業者の誰かが誤認して移送時の「脱水配管」に切り換えたた。その結果、発砲レジンがコンデンサーを越え脱水タンク、ストレーナー、ポンプに流れ込んだ。
 そこで、コンデンサー、脱水タンク、ストレーナー及びこれらに接続する配管に付着したレジンを除去する清掃を行った。さらに、この清掃作業でも作業指揮者に誤認があって、『脱水液ストレーナー掃除作業標準』を用いてストレーナーの清掃を念頭に置きながら、実際には「逆止弁」の清掃を4名の作業者に命じた。逆止弁の蓋を開けた作業者A、Cは噴出した脱水液を浴び、そばにいた同僚作業者B、Dにも脱水液の飛沫がかかった。
 そのため、午前10時30分ごろ、この非常処置作業に従事していた4名の作業者が、脱水液中の高濃度フェノールにより皮膚に化学火傷を負ったものである。