この災害は、食肉加工工程における冷却装置系に故障が起こり、機械室に据付けられていた7台の冷凍機のうち1台から冷媒に用いられていたアンモニアが漏洩して食肉工場内に流入・拡散したことによって発生した。
このアンモニア漏洩事故は勤務時間前の早朝に発生したため、出勤してきた労働者はすべて退避させ、排気装置等を用いて機械室及び食肉工場内の換気を行ってから作業を開始させたが、工場内のアンモニアガスの除去が不十分であったため解体作業者ら17名が2次災害としてのアンモニア中毒に被災したほか、工務係1名が液体アンモニアにより足指に凍傷を負ったものである。
この工場は、昭和44年以来、食肉加工施設として鶏の生鳥受入れ・放血から出荷までを一貫して行っており、現在の1日当たりの平均処理数は約45,000羽である。
食肉処理工場の作業の流れは、プラットホーム(生鳥受入れ)→生鳥懸垂→放血→脱毛→中抜→解体(包丁による手作業)→包装→箱詰め→出荷となっており、これらの処理ラインの両脇に冷蔵庫が配置されている。この冷蔵庫は、冷媒としてアンモニアを使用し、機械室の冷凍機に連結されている。
災害発生当日における、アンモニア漏洩事故発生から労働災害にいたる経過は以下のとおりである。
午前5時30分ごろ、警備員が機械室の冷凍機の1台(7台のうちのNo.2機)から霧状のアンモニアが漏洩しているのを発見した。
午前6時ごろから6時20分ごろまでの間に、連絡を受けて到着した工務係の責任者ら3名が空気呼吸器を装着アンモニアが漏洩していた冷凍機の高圧吹出しガスバルブと低圧ガス吸入バルブを閉め、アンモニアの吹き出だしを停止した。引き続いて、排気装置2台を用いて機械室を強制排気した。
午前6時40分ごろより食肉処理工場(機械室と同一建屋内にあり、漏洩したアンモニアが拡散していた。)を排出するため、排気窓28カ所及びシャッター4カ所を開放して自然換気をした。
出勤時刻(早出7時、通常8時)が近づいて出社してくる労働者は、すべて安全な場所に退避させた。
午前8時30分ごろより換気扇4台を用いて食肉処理工場内を換気し、次いで同9時30分ごろより排気装置10台にて同工場及び機械室内を強制排気した。
一方、当日、同工場中央研究所員がアンモニア用検知管を用いて食肉処理工場内のアンモニア濃度測定を実施しており、次の結果を得ている。
午前9時10分
・ 測定点2カ所
・ 最高濃度28ppm
午前10時50分
・ 測定点5カ所
・ 最高濃度12ppm
ただし、この測定結果の読み取りは当日は行っておらず(災害発生の3日後に読み取りしている。)、この測定結果は労働者の退避、作業開始の判断に活用されていない。
午前9時40分ごろ、製造事業本部長により作業開始の決定がなされ、同9時55分ごろ食肉加工の前工程の作業者11名が作業開始(この時食品衛生上の観点から、排煙窓は閉め、解体室に大型の換気扇1台を残した以外は排気装置等を徹去した。)、同10時50分ごろ解体、包装作業者173名が作業開始した。
これら作業者は強いアンモニア臭を感じながらも上司に伝えないで作業に従事したところ、当日解体作業者ら6名が咳、鼻汁、喉・眼の痛み等のため受診、翌日以降1週間の間に同じ工場で作業した同僚労働者11名が同様のアンモニア中毒症状を訴えて受診し、結局解体ライン作業者133名中16名及び包装ライン作業者40名中1名がアンモニア中毒に罹患した。
また、工務係1名がアンモニアが漏洩していた冷凍機のバルブを閉める際に足指に凍傷を負った。