この災害は、石油精製プラントの脱硫装置の定修工事中に硫化水素ガスが大量に漏洩し、作業をしていた労働者46名が被災したものである。
 この事業場は、1号、2号と呼ばれる2つの石油精製プラントを有する石油精製工場である。
 両石油精製プラントでは、原油から石油ガス、ナフサ、灯油、軽油、重油、アスファルト等を生産しており、原料油はこの精製工程の中で水添脱硫反応をさせて、含有する硫黄化合物を硫化水素に転化して除去する。
 災害が発生したのは、2号プラントで、ここには水添脱硫装置、硫化水素ガスから硫黄又は硫酸を回収するための硫黄回収装置、廃硫酸再生装置が設置されている。
 なお、硫黄回収工程は2号プラントだけに設置されていて、両プラントから中間生成される硫化水素を一元的に処理する方式になっている。
 2号プラントの定修工事は1年に1回、約1カ月かけて行われるが、この時期に工場全体の定修工事が行われると下請け関係者を含めて労働者は一日に2,000人に及ぶこともある。
 大災害を招いた硫化水素ガスの流出は、脱硫工程エリア内において発生した。
 災害が発生した場所では、計器用エア元弁に連結し、かつ、稼働中の配管系にある「圧力指示調節弁下流取り替え工事」を行っていたが、同じ脱硫工程エリア内では「計器用エア配管工事」も行われており、この「計器用エア配管工事」では、既設配管のエアを止める必要が生じたため、計器用エア供給の元弁であるバルブを閉止した。
 この時、エアレスオープン型の圧力指示調節弁が自動解放となり、「圧力指示調節弁下流取り替え工事」工事における下流弁(手動式の仕切り弁)取り外し箇所から配管内を流動していた硫化水素ガスが大量に漏洩した。
 なお、「下流弁取替え工事」関連の作業は、前日の午後4時頃から開始したが、その日のうちには完了せず、災害発生当日も継続されたものである。
 前日の下流弁の取替え工事においては、発注会社の技術者の作業指揮のもとで設備工事の下請作業者4名が従事した。
 火気厳禁のため、ボルトの切断は、ガス溶断でなく「手のこ」を使って行い、さらに途中でフランジの隙間から流れ出たドレン(黒色の汚れた油性分)の始末を残業して行なった。
 なお、この「圧力指示調節弁下流弁取替え工事」は雑補修(小改造)のための作業標準は作成されておらず、作業の安全に関しては技術者の口頭指示で行なっていたが、災害発生当日に技術者はこの現場には不在であった。
 災害発生当日は、午前9時頃から4名の下請作業者(うち1名は前日と入れ替わっている。)により前日の残りの作業が開始され予定の仕切弁を取り外したが、この時に圧力指示調節弁上流の閉止板も取り外し、また、上流弁の閉止もしないで作業が進められた。(この段階では、硫化水素ガスの漏洩は認められていない。)
 「下流弁取替え工事」について、工事計画の段階で、閉止板の位置変更については十分な検討がなされておらず、本来、圧力指示調節弁の上流側を閉止弁と閉止板とにより二重閉止を行なうべきなのに、当日は、閉止板のみで縁切りをした。
 また、「無断開閉取り外し禁止」表示付きの閉止板の取り外しにあたっては、解除申請と承認が必要であったがそれを行なっていなかった。さらに、下請けの作業者は、仕切弁取り外し時に配管が生きている表示(赤テープ)を見逃していた。
 一方、当日は、同じ脱硫工程エリア内で別の班による「計器用エア配管工事」が同時に行われた。
 この工事は、既設配管に新しい配管を分岐させるものであるが、発注会社の作業指揮者と下請の作業者4名が作業に従事した。
 午前9時30分頃、既設配管のエアを止める必要が生じ、作業指揮者がこの「計器用エア供給元弁」であるバルブを閉止したため、圧力指示調整弁へのエア供給が断たれた。
 なお、「計器用エア供給元弁」は、圧力指示調節弁に連結しているか否かが操作者には判らない設計となっており、配管が生きている時の操作手順も定められていなかった。
 その操作により、1号プラントから2号プラントの廃硫酸再生装置に向けて送給されていた硫化水素ガスが安全装置系統の配管に流入し、圧力指示調整弁の下流弁の取り外し部から大量に(約14分間に63立法メートル)漏洩し、付近でグラインダー仕上げをしていた下請作業員3名が死亡したほか、定修工事の作業に従事していた発注会社の職員、下請作業員等合わせて46名が硫化水素中毒に被災するという大惨事となった。
 なお、これら定修工事における二つの作業の指揮に当たった技術者と作業指揮者は、同じ課に属する製油技術者であったが、作業の安全に関する事前協議は行っていなかった。