この災害は、各種計器類を製造する工場に設置さているキュービクル(受電設備)のコンクリート基礎台に上り、キュービクルの高圧盤の内部を覗き、前日に発生した停電事故の原因を調べているときに発生したものである。
このキュービクルは、高さ2m、幅3m、奥行き1.5mのもので、最大契約電力60kWで電力会社の6,600Vの配電線から受電し、動力用および非常用220V、電灯用100V、特殊設備用3,300Vの3種類の電圧に変圧して、工場内に電力を供給している。なお、工場内負荷は、電灯用3系統、動力用2系統、特殊設備用1系統および消火ポンプなどの非常用1系統に区分されている。
キュービクル内には、75kVAの変圧器が設置されているが、この変圧器は、省エネルギー化のために、災害が発生した5日前に、従前の175kVAの変圧器から取り替えたばかりのものである。キュービクル前面は、3区分されており、左側に受電盤、中央に低圧盤、右側に高圧盤となっている。それぞれの盤には外開き式の扉が付いており、通常、この扉は施錠されている。
この扉の鍵は、工場長室に、工場出入り口の鍵などと一緒に保管されており、被災者である工場長が管理していた。なお、工場長不在時の鍵の管理は、生産管理担当課長が代行することになっている。
キュービクルの左側の受電盤は、電力会社の配電線からの受電盤であり、この中に高圧油入開閉器と変圧器が設置されており、この変圧器で100V、220V、3,300Vに変圧され、低圧盤および、高圧盤に接続されている。
中央の低圧盤は、変圧器で100Vに変圧されたものが工場内の電灯負荷に、220Vに変圧されたものが動力負荷と消火ポンプなどの非常用負荷に電力を供給するための配電盤である。この低圧盤は、電灯負荷用に2系統、動力負荷用に3系統、非常用に1系統に分けて配電しており、それぞれに遮断器が設けられている。また、それぞれの系統ごとに漏電遮断器が接続されている。
右側の高圧盤は、特殊設備用に3,300Vを供給するための配電盤であり、高圧油入遮断器が設けられている。
そのほか、キュービクル前面には、電圧計、電流計、電力計、変圧器油温計など各種計器類が計装されている。
通常時におけるキュービクル扉の開閉は、低圧盤のみであり、始業および終業時に、工場長が指名した従業員が、工場長室に保管されている鍵を用いて、低圧盤の扉を開けて、電灯および動力回路の遮断機を開閉していた。
そして、その都度鍵は工場長室の保管場所に戻されていた。
電気系統の保守点検は専門業者に委託しており、突発的な事故発生時には、この保守点検を委託した業者が対応することになっていた。
災害の発生した前日の午後8時30分頃、工場内が停電したことを、遅番の従業員から、帰宅していた工場責任者である被災者に連絡があった。連絡の内容は、仕事中に工場内の照明が停電し、キュービクル方向から焦げ臭い臭いがしたので、キュービクル低圧盤を開けて見たが、少し臭う程度であったとのことであった。この連絡を受けて、被災者は、翌日早朝に対処することとして、連絡をしてきた従業員に対し、作業を中止するように指示した。
災害が発生した当日、午前7時に出勤した被災者は、工場電気設備の保守点検を委託している業者に連絡し、担当者の派遣を依頼した。しかし、担当者が不在であったため、早急に担当者から直接連絡する手配をするとの返事を受けた。電話連絡をした後、業者からの連絡を待つ間に、被災者は、停電事故の原因を調べるために、キュービクルへ赴いた。
その後、7時30分頃に、工場付近一帯が停電となった。
工場付近一帯が停電した直後、キュービクルの受電盤の扉は半開きの状況であり、低圧盤の扉が開いている状況で、扉が半開きになっている高圧盤の前で仰向けに倒れている被災者を発見した。
なお、災害発生時には、キュービクル受電盤の高圧開閉器は閉の状態で通電されており、低圧盤の遮断器はすべて開の状態で工場内は停電状態であった。