この災害は、医薬品中間体等製造工法でのベンジルクロロホーメートの製造工程の脱ガス作業において発生したものである。
その製造は、反応、熟成、分析、脱ガスの4作業に大別され、概ね次のとおりである。
反応 (所要時間 約16時間)原料のベンジルアルコールとホスゲンを投入し、常圧下で、攪拌しながら反応させる。反応は5回繰り返す。
熟成 (所要時間 約5時間)
分析 (所要時間 約2時間)
6kl缶より生成したベンジルクロロホーメートを500ml抜き出し、研究室で分析する。規格に適合していれば熟成を続ける。
脱ガス (所要時間 約12~13時間)
[1] 真空ポンプを回し6kl缶を-60cmHgまで減圧する。減圧後30分経過したら6kl缶のジャケットからエチレングリコール水溶液を抜き、ガスが発生しやすいように温水(35℃)を循環させ、約3時間経過させる。
[2] 減圧バルブを締め、窒素ガスを充墳する。内圧はこのときほぼ常圧に戻す。
[3] 常圧になったら、減圧バルブを開け、真空ポンプより塩化水素ガス(不要なもの)、ホスゲンガス及び窒素ガスを吸い出す。内圧は再び減圧となる。塩化水素ガス及び窒素ガスはコンデンザ、3kl缶を経て除害塔へと行く。
[4] 約1時間そのままの状態にしておく。
[5] [2]~[3]の作業のあと3回繰り返す。
[6] 窒素ガスを充墳し、5~6時間そのままの状態にしておく。
[7] 6kl缶から塩化水素ガス及びホスゲンガスが確実に抜けていれば、6kl缶を冷却し、完成。
今回の生成作業は、2ロットの生産予定で6月12日から開始した。2~3年前から生産しており、前回は4月に4ロット生産した。
6月11日以前は、同じ缶で他の製品を生産していた。
災害発生前日14日は、熟成から分析を終了し、6時頃に脱ガス作業に入った。しかし、ジャケット内のエチレングリコール水溶液の抜き取りが不十分であることが判明し、次番方に引き継がれた。
災害発生当日15日の1番方(8:15~16:30)は、午前8:45、製造責任者Aの指示を受け、ジャケット内の洗浄するため、温水を一旦全部外に出して、スチームを流し込んだ。
午前10:00頃、6kl缶の内温が50.7℃まで上昇したのでジャケットに工業用水を回した。
その後約40℃まで下がり、午前12:00前に工業用水を温水に切り換えた。
脱ガス作業(前記[2]~[4])2回目終了、1番方勤務を終了した。
2番方(16:15~8:30)はAの指揮のもとでB及びCが担当した。午後4:15から引継書により引継ぎを行い、特段の異常や注意事項は記載されていなかった。
午後4:30頃、Cは6kl缶の内温が通常(20~30℃)に比べ、40℃に近いのに気付き、Aの指示を受け、ジャケットに温水を工業用水に代えた。
5:00少し前に、6kl缶の圧がかかりぎみになり、Aは攪拌を止めたのち、真空ポンプを稼動させ、さらに除害塔を復帰し、攪拌を再開した。
攪拌を再開したらまた圧力がかかってきたので、攪拌速度を落とし、圧がかからなくなり、Aは元に戻ったと思い、また少しずつ攪拌速度を上げていった。
5:00過ぎ、CとBは缶内の液面の泡立ちが通常より激しく異常を発見し、Aの指示を受けたかったが、Aは外線に電話が入っていたため現場にはいなかった。
Bは缶内の液面の泡立ちが益々激しくなり、突沸をふせぐため、留出ライン(6kl缶-除害塔-コンデンサー3kl缶のライン)を閉めさせた。ところが6kl缶の内圧がまた下がってきたので再度そのラインを開けさせた。
そして6kl缶の内圧を見たら、0.3kg/cm2と加圧に転じていた。
Bは減圧できるように室内元バルグをより大きく開いて、6kl缶のもとに戻ってみると、その間1分もかからないうちに、圧力計が1kg/cm2を示すようになっていた。
Bは、他の場所で電話中のAに戻ってもらうため、催促したが、戻って来なかった。その間にCに攪拌を止めさせて、6kl缶のところに戻り、圧力計を見ると2kg/cm2、また3kl缶も0.5kg/cm2に上がっており、このままでは危ないと思い、近くにいた者と一緒に逃げ出した。
間もなく、「キーン」という音がし、その音が止ると同じに、6kl缶本体とふたの間にすき間ができ一瞬「ドカーン」と爆発音とともに工場内は真っ白になった。6kl缶のフランジが屋根を突き破り、約50m飛んで草むらに落下した。
工場長代行達が救助に向かったが、うまくいかず、結局レスキュー隊の救助を求めた。