この事故は、鉄筋コンクリート用の棒鋼、丸鋼、異形棒鋼等を生産している工場の電気炉で発生したものである。
 事故の発生した電気炉は、製鋼用の炉蓋旋回式炉頂挿入型アーク炉で、公称60トンの容量のものである。
 この電気炉による溶解、精錬作業の通常の作業手順は、次のとおりである。
(1) 鉄くずの電気炉への挿入
 106トンの鉄くずを3回に分けてチャージングバケットにより電気炉に挿入するもので、第1回目に44トン、第2回目に30トン、第3回目に32トンを挿入する。
 出鋼量は100トンである。
(2) 溶解、精錬
 電気炉に通電し、約1650℃で溶解し、途中、鉱滓を取り出して精錬を行う。
(3) 出鋼
 挿入から出鋼まで(1チャージという。)の時間は、約85分から90分で、出鋼後、作業長が炉壁の状況を作業口と炉の上部から点検する。炉壁の著しい損傷等が認められない場合は、次のチャージに移行する。
(4) 炉壁補修
 この電気炉は、炉外被(鉄被)の内側に耐熱のために耐火レンガを敷き、その上にスタンプ材(主成分:酸化マグネシウム−MgO、92%以上)を吹き付け、焼き付けているものである。
 耐火レンガは、長さ350mm、幅114mm、厚さ65mmのものを用いている。また、スタンプ材の吹き付けの厚みは、スラグライン部位で約100mmである。
  [1] 定期的な補修作業は、2週間に1回休炉時に炉内に入り、炉内の溶損状況を点検し、必要に応じ耐火レンガの交換、スタンプ材の吹き付けと焼き付けを行う。
[2] 随時の補修作業は、各チャージ毎に炉内を作業口と上部より目視し、必要に応じ炉外より吹き付け材を吹き付けを行う。
 この場合、炉内が熱いため中に立ち入ることは出来ないので、吹き付け材は次のチャージで自動的に焼き付けが行われる。
 一直の作業では5〜6チャージが行われるが、1チャージ行うとスラグライン付近で約10mmの耐火材(スタンプ材)の激しい溶損が認められる。
 このため、4〜5チャージ毎に耐火材の吹き付け補修を行い、炉壁、耐火材の厚さを確保することになっている。
 なお、この吹き付け材の成分は、酸化マグネシウム、88.5%以上のものである。
 溶解作業は三交替制で行い、毎週火曜日を休日としていたが、事故の発生した5月からは三週四休に変更したため、3週間に1回は火曜、水曜と2日間、電気炉を休止していた。
 今回、事故の発生した日については、火曜、水曜の休みの他に、さらに生産調整のため、月曜日の午前8時44分に出鋼してから約2.5日間の休炉の後、水曜日の午後10時に操業を開始したとき発生したものである。
 事故発生当日、午後10時から操業を担当しているC班の5名が作業に取りかかった。21時30分頃から作業の段取りを打ち合わせ、午後10時に電気炉に通電し、炉の中に原料の鉄くず106トンを順次挿入し、オートアークを使用した標準作業で溶解作業を開始した。
 溶解作業は順調に進み、開始してから約90分後の午後11時29分頃に溶解、精錬を終了し出鋼作業に取りかかろうとした。
 このとき、炉の作業口で溶鋼の温度測定をしていた作業員が作業口の近くのスラグライン下部付近の炉壁が異常に赤変しているのに気付き、危険を感じて傍らにいた作業長と共に操作盤室内に退避した。
 操作盤室ですでに居た他の作業員も含め、身を伏せていたところ、第1回目の水蒸気爆発が起こり、その後10回ほど水蒸気爆発を繰り返したものである。
 なお、爆発の起こった際、他の作業員のうち1名は、電気炉の溶損した部分の反対側におり、1名は、出鋼前に溶鋼のサンプルを採して分析室に運んでいたため、いずれも爆発現場におらず被害を免れた。
 したがって、この事故による被害は、電気炉の炉壁、外被、冷却水配管等の設備の一部と操作室の窓ガラス等建築物の一部等物的被害のみであった。