この災害は、ビルの外壁材として広く使用されているプレキャストコンクリートカーテンウォール(以下「PC板」という)を製造している工場で、作業のため吊り上げたPC板が落下したものである。
当日の作業は、前日成型したPC板を型枠からはずす脱型作業を行う予定となっており、作業には工場の従業員であるAと、工場の下請けをしている会社の従業員であるBが担当することになった。
朝礼時には、前日に作成された作業指示書に沿って、当日の作業内容の確認が行われた。
これによると、脱型作業は、
[1] 型枠を固定しているノックピンをはずす
[2] 脱型および搬送するためにPC板の4隅に埋め込まれているインサート金具(M22のめねじを有する鋼製の円筒)にねじ込まれているボルトをはずす
[3] PC板をつり上げるために、L型アングル(約80ミリ×80ミリ)のL字の底面とPC板の上面が面接触するようにボルトで締め付ける
[4] この方法でPC板の4隅にボルトでL型アングルを固定する
[5] L型アングルのL字の側面にあいている穴にシャックルを取付け、シャックルにワイヤロープを通してPC板をつり上げて脱型する
という手順であった。
作業は、この手順に従って行われ、PC板(設計上の寸法は、幅が2.68メートル、長さが約4メートル、厚さが200ミリで、重量は3.64トンであったが、災害発生後に実測したところ重量は5.75トンあった。)をつり上げ荷重7.6トンの床上操作式クレーンでつり上げて脱型した後、さらに1.5メートルつり上げてその下に入ってPC板に付着した目地ゴムを取り除く作業をしていた。
そのときアングルとPC板を結合していたボルトが抜けてPC板が落下し、下で作業をしていたAは全身がその下敷きとなってその場で死亡し、Bは腹部から足まで押しつぶされ、病院に収容されたがその日のうちに死亡した。
PC板の落下の経過は、4本のボルトのうち、PC板の長手方向の右端手前のボルトと右端奥のボルト2本が最初に外れ、左端手前のボルトは抜けずにL型アングルと一緒にPC板に残されていたが、左手奥のボルトは落下の衝撃でインサート金具と一緒に抜け落ちたものと推定される。
また、Aが下敷きになっていた位置は、PC板の左端奥のボルトの近くに頭があり、足はPC板の中央近くとなっていた。一方、BはPC板の中心部に腹部から下を挟まれていた。
PC板とアングルの締結に用いられていたM22のボルトは、強度区分が4.6、ねじ部長さが55ミリで、JISで定める最小引張り荷重(製品が引張り試験で耐えなければならない最小荷重)は、12.3トンである。
この作業は、通常、工場の従業員と下請け会社の従業員が2人一組となり、工場の従業員がクレーンの運転と玉掛作業を行い、下請け会社の従業員は工場の従業員の指示に従って作業をするようになっていたが、災害時の脱型作業ではどちらがクレーンの運転していたのかは不明である。
なお、PC板を吊っていたクレーンを操作するには、床上操作式クレーン運転技能講習修了等の資格が必要であるが、工場の従業員Aが有していた資格はクレーン運転特別教育と玉掛技能講習のみであって、床上操作式クレーン運転技能講習は受講していなかった。
また、下請け会社の従業員Bはクレーン関係の資格は全く有していなかった。