この災害は、銑鉄鋳物品の製造を行なっている会社で発生したものである。
 鋳物の製造工程は、木型の製作→造型→中子の製作→型かぶせの仕上げ→溶解鉄の注入→型ばらし→製品の仕上げとなっている。
 この作業には、各種の金属製の型枠(縦80〜140cm、横80〜140cm、高さ20〜83cm、重量20〜100kg)(以下「金枠」という。)を使用しており、下金枠と上金枠を組合わせて1つの金枠にして比較的重量がある(約40kg〜1t)各種の銑鉄鋳物品を製造している。
 金枠の外側には、玉掛け用のテング(チェーンをかける長さ13.8cm、直径9cmの突起物)があり、それにリング状の専用の吊りチェーンを掛けるようになっている。
 1,300℃以上に溶かした溶解鉄を流し込んだ金枠は、5.1tホイスト式天井クレーン(以下「クレーン」という。)でスラットコンベア(高さ65cm)の上に運び、14時間以上冷却している。
 約200℃近くまで冷却されたものは、次の型ばらし(金枠と製品とに分ける。)に移るが、型ばらし機が1台のため、1回ごとにクレーンを使って型ばらし機に入れ、機械の振動でばらしてから金枠、製品を取り出す作業を繰り返し行なっていた。
 被災者は、造型、中子及び型ばらし作業場の責任者(職長)であり、これらの工程管理を行なうとともに、現場で作業も行なっていた。
 なお、災害発生の数日前に、型ばらし作業担当の者が負傷して休業中であったため、被災者が替って型ばらし作業を行なっていた。
 型ばらし作業は、先ず、前日に鋳込まれ、冷却工程のスラットコンベアに2〜3段重ねで置かれている金枠を専用の吊りチェーンで玉掛けし、クレーンで9.5m離れたところにある型ばらし機のすぐ近くに運搬して一旦仮置し、次いで、金枠を1組ずつクレーンで型ばらし機に入れ、約5〜15分程振動を与え、金枠と製品と砂に分け終ったら、またクレーンで金枠と製品を取出すという工程である。
 災害発生当日、被災者は、午前8時頃から型ばらし作業を始め、午後2時50分頃、スラットコンベアにある金枠2段重ね(高さ169cm)をクレーンで運搬するため、玉掛けしようとしたが、高さが床から2.4mもあり玉掛け用リング付きチェーンを掛けるのに手間取っていたら、別の作業をしていた作業者が見かねて反対側の玉掛け作業を手伝ってくれた。
 それから、金枠をクレーンで仮置場まで運搬してきたが、そこには先に運搬してあった大きさの異なる金枠が2列に2段から3段積みとなっていた。
 そこで、被災者は、型ばらし機の一番手前の2段積み金枠(縦87cm、横1,110cm、高さ130cm、板厚4.5cm)の上に積み重ねることにした。
 すでにあった2段積み金枠は、隣りの金枠のテングとぎりぎり近接して置いてあったが、被災者は運搬してきた2段積み金枠(縦115cm、横115cm、高さ75cmと縦83cm、横83cm、高さ94cm、板厚はいずれも4.5cm、合計重量1.5t)も同じく隣りの金枠のテングとぎりぎりの位置に置くことにした。
 先にあった金枠の角隅に合わせて積み重ねたところ、上の金枠は約30cm飛び出した形となった。なお、桟木等の「あてもの」はせず直接金枠の上に重ねたため、不安定な状態ではあったが、4段に積み重ねた金枠の高さは、床面から3.1mであった。
 被災者は、この時も他の作業者の手をかりて金枠のテングから玉掛けチェーンを外した。
 それから、被災者は、他の金枠を型ばらし機に入れることとし、運搬してきて積み終った金枠から通路を挟んだ北側に平積みで並べてある2つの金枠のうち手前にあるものを運ぶことにした。
 午後3時10分頃、被災者が、1人作業でクレーンのペンダントを操作しながら金枠のテングに玉掛け用チェーンを掛ける作業中、突然、先程4段に積み重ねた金枠のうち、上から3段の金枠が崩れ落ちてきた。
 このため、被災者は、崩れ落ちてきた金枠のうち最上段の金枠とまだ150℃以上の温度がある鋳物製品(合計重さ約400kg)の下敷きとなり、午後9時25分に骨盤骨折、出血性ショックにより死亡した。